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最果ての城
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最果ての城 19

ほぼ同時に開発に成功していたヴァラキア側の陣営も、時間差で相手陣営の領土に投下。こちらも周囲を地獄と変貌させる。
その威力に恐れをなした両陣営は、核の製造・使用を禁止する事で合意、世界を二分した戦争は決着がつかぬまま徐々に収束した。
その後も多くの国が密かに核を製造していたが、ある国が製造上の事故により滅亡してからは、核を持とうとする国は無くなった。

数年前、マラナが遭遇した核攻撃は、これらに比べればごく小規模なものだった。
戦略上重要視されていたヴァラキア軍基地を一つ、消し飛ばしたにすぎない。
しかし、本国から離れた植民地のその基地跡には、いまだ草一本も生えてはいないという。

消極的な規模とはいえ、核の使用に対して世論からはシェザールを非難する声が上がった。
シェザール国内においても批判は大きく、結局その後一度も核攻撃は行われていない。

かつての大戦と同様、この戦争にも決定打が欠けている。
ただ一つ、決定打となり得ると想定されているのが…

「魔狼…はここにいた。今はどこに?」
「聞かないで。魔狼の痕跡はごく薄い。いたと言っても、昔のことだ。捕獲されず生きていて、移動しているとしたら…」
「だとしたら?」

マラナはうながした。
ハトは肩をすくめながら続ける。

「近くにはいないね。魔狼は人狼と違って群れないし、彷徨の性質がある。マラナ、あなたが出会った魔狼もそうだったんだろ?」

彼女は頷いた。
魔狼の性質によるものか、必要に迫られてか、彼自身の癖によるものかはわからないが、確かにツナはあのとき、長い旅の途中にいた。
生死を旅にたとえた、彼の言葉を思い出す。
マラナをさとすためだけではなかった。ツナ自身も同じ葛藤の中にいたからこそ出た言葉であり、行動だった。

「単独で移動するものを追うのは難しいよ。でも、ここにいたのはわかった。他の遺跡でも同じように調べてみて、時系列がわかれば、移動の方向が見えてくる」

ハトの言葉に、マラナは首をかしげた。

「しかし、他の遺跡で痕跡が見つかったとしても、同じ個体のものとは限らないのでは?」
「あのチップは、あなたが魔狼に出会った前後から現在までに抽出された噂がもとになってる。これは博士が言ってたんだけど…絶滅寸前の魔狼が、短期間にそう何匹も存在したとは思えない。十中八九、噂のもとはごく少数、もしくはある単一の個体だ、ってさ。つまりその個体っていうのは…」

マラナは衝撃を覚えた。ハトの言わんとするところを悟ったためだ。
ここにいた魔狼がツナかもしれない、という可能性を、彼女はなぜか全く考えていなかった。

「その、ここにいた魔狼がツナ…私に血をくれた魔狼だと、識別できるのか」

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