最果ての城 16
いやでも目につくのは、二脚で固定された大型ライフルだった。
スコープと外装にミヘザエル製の偽装が施されている…が、マラナにはわかった。
ヴァラキア軍の対物狙撃銃だ。
セミオートの50口径。白兵掃討戦で常にシェザールに打撃を与えてきた。
見れば、歩兵の持つアサルトライフルも、ミヘザエル製ではない。汎用性の高いシェザール軍のものだ。
流通経路も気になるところだが、中立国内での支援部隊にしては重装備すぎる。
それが、クレザム国境に配備される。
ミヘザエル軍の考えは、どこにあるのか。
新たに浮上した問題に、マラナは頭を悩ませた。
報告の機会を逸したことを、彼女は長く後悔することになる。
早朝にアザニニアを発ってから半日が経過し、調査団はクレザムの主都に到着した。
暫しの休憩。昼食の時間だ。
「さて……どうする?」
このまま本隊と別れクル=コバドに直行する事はできる。言い訳も簡単だ。しかし、十人いる傭兵の中から二人も抜けるのは些か無理がある。三人共それは把握していた。
「そうだね、この場合は……」
「俺は本隊に付いて行く。クル=コバドには二人で行ってくれ」
「いいのか?」
ここでマラナは声を潜めた。
「人狼が居る可能性もゼロでは……」
「近くの同種より遠くの同族だ」
確かに、レオの本来の目的は、とらわれの同族と仇のレニチケだ。
存在のあいまいな眷属のために危険をおかすよりも、任務を無事に運ぶことを優先させるのは正しい。
マラナの任務の果てに、あるいは途上に彼の目的はあるのだ。そのために同行している。
レオの申し出に、マラナは考え込んだ。
出資者の一人がヴァラキア軍と取引きを持つ企業家である関係から、マラナたちは調査団にもぐりこんだ。
彼女たちが離脱しても、その出資者とつながる中枢メンバーが、周辺状況の先行調査とでも何とでも、理由付けするようになっている。
だが、目的地の重複の件が、マラナを迷わせていた。
調査隊内部に、彼女たちと別枠で、同じ目的を持ったものがいる、可能性がある。
その連中に怪しまれるようなことは避けたい。
「確かに、レオは本隊にいた方がいいかもしれない」
結局、彼女はこう言った。
「調査隊にミヘザエル兵がまぎれていたとしても、まさかすぐそばに人狼がいるとは思わないだろう。気づかれさえしなければ、逆に安全だ」
…気づかれさえしなければ。
マラナは内心でそう、繰り返した。