最果ての城 12
レオは頭にターバンを巻きつけていた。
これならば多少髪が伸びてきても、再び剃り落とすまで隠し切ることはできるだろう。頭はそれでいい。
ただ、2メートル超の長身に、目立つなという方が無理だ。
ハトは普通の少年だ。
が、この探索行に、普通の少年がついて来られるものかは疑問だった。
危険をともなう任務だということは、その初日に証明されている。
「道案内はハトがする」
あいさつより先に、カノープスがハトを彼女の前に押し出した。
「意味がよくわからないんだが。地図なら持っている」
「まあそう言うな。こいつがいれば仕事が早く済む」
彼はそう言いながら、ハトの頭をぽんぽんと叩く。
少年は、あきらめの混じった表情で、黙ってそれに甘んじていた。
「魔法動物が出そうな場所は、あらかたフィールドワークに行かせたからな。チップの中の、除外していい遺跡もわかる」
それに、とカノープスは続けた。
「シェザール領には入れなかったが、遺跡周辺の地理は完全に頭に入ってるはずだ」
だな?とカノープスが少年に確認する。
彼は頷いた。
「チャンスがあったらいつでもみつにゅ、…入国、して短時間で調査できるようにしておけと、博士が言ったので」
「…なるほど」
マラナは余計なことは言わなかった。
学者の探究心は、共感はできなくとも理解はできる。
カノープス自身はここを離れられない。もし彼が、いるべき場所から姿を消せば、彼の立場と専門分野から、必ず誰かがその意味に気づく。
名もない助手ならば、その危険は少ない。
ハトは、彼の探究の代行者というわけだ。
クレザム入国の手筈は、大佐を通して軍部から伝えられていた。
カノープスは、ギルバートからの知らせの段階で、クレザム行きを考えていたらしい。
中立国であるミヘザエルを経由し、学術調査の一団を装う。
実際に、ミヘザエルの私設研究機関から、地衣類の分布に関する大規模な調査団が計画されているらしい。
国中から協力者を募っており、それにまぎれようというのである。
むろん、ヴァラキア人としての入国は難しい。
領事と潜伏している情報部が、仮の身分を用意することになっている。
「何も、本当に調査に参加することはない」
カノープスは補足した。
「入出国だけ合わせれば、クレザム内での行動は自由だ」
「ずいぶん都合がいいようだが」
「『私設』の調査団だと言っただろう。国は一切関知していないんだ。…となれば、少々の無理はきく」
カノープスの言葉に、マラナは頷いた。
「じゃあ、よろしく頼むぞ。……あと、気をつけてな」
カノープスの、いかにも付け足しのような気遣いの言葉とともに、一行は出発した。