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もう一人のわたし
その他リレー小説 - 二次創作

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もう一人のわたし 7

「もう、あの事件から何十年目だったかな?」
小学校の頃、道徳の時間で習ったあの事件のことを思い出し、口にしてみる。
「四十年目だったな、確か」
あの事件。ミュージック・コンクレートなる奇抜な作曲法で世の耳目を集めていた作曲家、和賀英良による戸籍偽造と殺人事件の発覚。
それは、彼もその一員とされていた文化人団体「ヌーボー・グループ」の盟主と目されていた関川重雄の、共犯の発覚と名声の失墜を伴うものであった。
そのまま和賀・関川は、事件の暗い影を引いたまま世間の表舞台から姿を消すかと、一時は思われていた。

が、しかし。当の和賀はその戸籍を隠していた理由……実の父、本浦千代吉が業病とまで言われた癩病・ハンセン病患者であったことにより、思わぬ援軍を得る。
かねてより婚約していた、大臣経験者・田所重喜の娘、佐知子がハンセン病関係の問題解決へと活動を始めていったのだ。
他の先進諸国と比して明らかに時代遅れであった「らい予防法」の改正、同病患者を集める施設の改善及び社会復帰の手助け、同病に関する誤った知識の払拭など、
佐知子の活動対象とする範囲は目覚ましいほどに広かった。父、重喜の党人同僚である厚生族議員たちの後押しもあり、その活動は着実に実を結んでいった。

そしてついには、元々婿養子を取って跡を継がせる気でいた重喜の政治家としての地盤まで、佐知子自身が継ぐに至る。
そして初出馬の際の名前は、本名の田所ではなく『和賀佐知子』であった。
和賀英良はまだ服役中であり、彼も彼女との婚約は諦めていたところであったのだが、彼女は敢えてその彼の姓を冠して見せたのだ。
彼女の初出馬は大選挙区制・全国区へのものであったが、同区保守党立候補者中、三位の得票数を得て見事当選。そして厚生関連畑を歩み始め、そのまま今に至る。


今ラジオに出ている本浦ちよは、その佐知子と刑期を終え出所した和賀英良改め、本浦秀夫との長女である。当初、ちよは田所姓に入っていたが
後に長男が生まれたため、彼に田所家の後継を譲り本浦姓を名乗り始める。
……と、以上のことを掻い摘んで今のラジオ番組は言っていた。

「そういや、この工場跡もそのメシア教だかが買い取って
 この辺一帯の総本部にするかもしれねえって、噂になってるな」
げんえい君が初耳な事を言う。
「それは困る。地味に困るよ」
「そりゃそうだが、こんな広い土地を空き地にし続けても不自然だしな」
そんな彼は、誰かが持ってきたカセットコンロにこれまた誰かからの鍋を載せ、
星草農業高校の人たちが実習で作ったらしい野菜で、よく分からない煮込み料理を作っているところであった。

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