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もう一人のわたし
その他リレー小説 - 二次創作

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もう一人のわたし 6

「ねえ、クローンって何」
「遺伝子をコピーした個体、じゃなかったかな」
今度は生物の教科書を広げたこうじ君が答える。
「それって本当にどこまでも同じなの」
「遺伝的に、てだけだよ。記憶や経験、考えまではコピーできないはずだ」
そりゃそうだ。双子なんだからね。
「へー。そんなの、金持ちはいくらお金積んでもほしいって本当かなあ」
「単に知らないだけだろ。完全な自分の分身が出来るとでも、思ってるんだろうぜ」
「でも、もし本当に自分の完全な分身ができたら怖いよね」
「そうなったら、まりあの恐れていることが現実になるな。たとえ子育てに失敗してもやり直しが効くとかで」
そうだ。私が恐れていたのはそこだった。
「まあ、ありえねえよ。そこは心配するな。ただ……」
「ただ?」
「うん、気づいてたとは思うが俺たちでは産婆さんの代わりにはなれねえぞ?」
「???」
まさ君は何を言ってるんだと思ったが、何のことはない。ここでは産めないということだ。
「そうだな、折りを見て家に帰った方がいい」
「親御さんの心配は、まりあがおなかの子を心配するのと同じだろうからな」
そうだ。私も親になるんだ。この子の。
今まで、同じ『子供』同士としてこのおなかの子を、どこかで恐れていた。
自分の、子供としての地位を脅かすものとして。
でも、違う。この子は、この子だ。私の子供であり、私は親なんだ。
「だから、私がちゃんとしなきゃいけないんだよね……」

「まあなんだ、とりあえず力抜けって。まりあの親御さんは俺もよく知ってるからよ。これから帰りに寄って、無事だって伝えとくぜ」
こうじ君が荷物をカバンにまとめ、帰る準備を整えていた。誰かが持ってきた壁掛け時計はもう9時半を指している。
こんな時間だ、心配してるんだろうなー……してくれてたらいいなー……
「そうだな、友達の家に泊まるらしいって伝えておくか。明日は土曜だから、まあ大丈夫だろ」
まさ君も同じく帰る様子になっている。
え? これからわたし一人?
「心配するなよ、げんえい残しとくから」
「いやどうかな、げんえいはけっこうスケベだからな」
「おまえら、何が言いたい?」
「知ってるぞ。お前今日、サッカー部の短期合宿だって家に言ってただろ」
まさ君の指摘をげんえい君は無言でそれとなく認める。
「いる気だったんだろ。始めから。そうしてやれ。次期キャプテンとしての命令だ」
「言われなくても」
「だろうな」「心配はしてねえよ、理由は言わないけどな」
そしてそそくさと二人は帰っていった。
「まったく、あいつら……帰るとなると速いな」
二人の去った工場事務所には、それこそ沈黙しかなかった。
と思ったら、どちらからともなく腹部から空腹を示す音。
「あー……」「ああ、何かあったはずだ、うん。待ってろ、星草のやつが持ってきてくれた野菜か何か……」
げんえい君が皆の持ってきてくれた荷物を探り始める。手持ち無沙汰な私は私で、目の前のラジオを無意識にいじり始めていた。
「……『本日の"今日の一言"、ゲストはメシア教教団日本支部広報副部長、本浦ちよさんです』」
何気なく合わせたチャンネルでは、その時々の旬の人から、時局その他について一言コメントをもらう、という形式のミニ番組を演っていた。
「メシア教か。最近よく聞くようになった名前だな」
私も知っている。確か、元々は救世主待望論を軸にして海外で生まれた新興宗教だけど、
この日本では、「あの和賀英良の後援団体」として有名だった。

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