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泡沫の命を宿す者
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泡沫の命を宿す者 2

阿片の表情が僅かに変わった。そしてすぐにいたずらっぽく微笑む。
「……どんな人形が……?」
「表のショーウインドゥにある人形を」
そこには、ちょうど等身大に近い少女の人形がある。キューティクルのかかった栗色の髪に、フレアスカートの衣装。アルの作品の一つだ。
「少々お待ちください」
そう言い残して阿片は、再び店の奥に消える。

どこか気に食わないところを見つけたのか、阿片が部屋に戻ったとき、アルはまた裁縫具をだして人形を縫っていた。
「アル〜。お客さんよ」
阿片が声をかけるとアルは手を止めて、ゆっくりとそちらを見る。
「ルノスワトゥードの、かい?」
「そう」
椅子から立ち上がり、傍らに人形を置く。座っている時には解りにくいが、アルは阿片とはかなりの身長差があった。見上げる形でアルは阿片の顔を見て、つまらなそうに言う。
「じゃあ、お客さんにお話を聞いてくるよ」
部屋をでるアルの後ろ姿を見送り、阿片はいままで彼が腰掛けていた椅子に身を預けた。
「ふう」
軽くのびをして、なにげなく天井を仰ぐ。
傾斜した屋根にある天窓を、大粒の雨が叩いている。晴れているときはその窓から暖かい陽の光が注ぐこの席は、作業するアルの指定席だ。
「雨、止まないなぁ……」
憂鬱な独り言を呟く。
阿片は雨が嫌いだった。さきほどの理由ももちろんだが、なにより彼女自身の体駆が水を、とりわけ雨のような継続的に体を濡らす水を苦手としているのだ。
ふと傍らの人形を手にとった。
パペットサイズのその人形は写実性が薄く、マスコット型のデザインをしている。糸で作られた口はニッコリと微笑み、黒いボタンの瞳には阿片の顔が映りこんでいた。
「はじめましてー」
おどけた口調でその人形を抱き上げ、阿片はクスッと笑う。
そのまま、阿片は作業台に並んだ作りかけや修理中の人形たちのほうを見た。この店に並ぶ人形は全て、店主であり人形技師であるアルの作品だ。
彼の人形作りの腕は素晴らしかった。
それこそ、人間と見間違うほどのものを作りだす。
そう。まさしく、命の宿ったかの如く……
「雨の音と同化しているようだね」
ついアルの作品たちに眼を奪われ心を散らしていた阿片は、いつの間にか部屋に戻っていたアルの声にはっと我に返った。
「あ、アル。どうなったの? お客さんは?」
「マリカを気に入ってくれたみたいだ」
なにかを思い出すようにアルは宙を見る。マリカを作ったときのことを思い出しているのだろう。
彼はいつもそうだが、人形が売れていくときになんだかおかしな表情をする。無表情、というわけでもなく、寂しげな、しかしどこか楽しげな、不思議な微笑。

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