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球児の夢
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球児の夢 10

一度は諦めた夢、しかし、大好きな野球を捨てきれず復帰した小林。自分のために、チームのために頑張り過ぎたことが皮肉にも仇になってしまった。
沢井もベンチにやってきた。
「監督、ピッチャー交代です」
「何かあったのか?」
「ええ、コイツ肩痛めたようですから大事をとって」
「そうか…分かった、おい!北山、頼むぞ」
「はっ、はい」
まさかの登板に驚く北山。
「クソッ!」
冷静な小林が珍しく悔しさをあらわにした。それを見た沢井は
「葵ちゃん、コイツをしっかり見張っといてね」
「はい」

「(試合を崩す訳にはいかねえ)」
スクランブル登板となった三年の北山だったが、球を低めに集めることを心掛け、何とか8・9回を無失点で切り抜けた。
残すは9回裏の攻撃のみ。
打順は9番の阿久根から1番荒木へと上位に回る。
8回まで河北工業の中田は、小林以上にキレのあるカーブとシンカーを多用し、国浜打線をシングルヒット5本に抑えていた。
「9番ショート阿久根君」
打席に入る阿久根。
「(これじゃ小林がいなかったから負けたみたいになる…)」
阿久根はグッと構えた。

カウントは1−1。中田が投げた。カーブだ。
「(甘い…?打てる!)」
カーン
阿久根の打球はライトの横に落ち転がった。阿久根は全速で二塁まで走った。
国浜今日初の長打。
中田は変化球を多投したせいでキレが落ちていたのだ。
「1番ライト荒木君」
「(打つ!)」
荒木は気持ちを高めた。
中田の1球め。シンカー。
「(見える)」
カーン
荒木の打球は左中間を破った。
阿久根がホームへ生還。同点だ。なおも二塁。
「2番センター武市君」
大橋の代役の二年武市。打力は大橋に敵わないが、俊足で小技が武器の男。
通常はバントだが、次の3番は巧打の小林に代わった打力の低い北山。4番の中村もここまでノーヒット。一方の武市は今日ヒット1本放っている。
島中監督は武市に勝負させた。
「(俺が決める)」
武市はバットを短く持った。中田のボールに食らい付き、2−2。
中田の勝負球はストレート。
カーン
武市の打球はセカンドの横を抜けた。荒木は三塁を蹴る。センターが捕球し、バックホーム。
しかし、球が僅かに逸れる。その間に荒木はホームにヘッドスライディング。
「セーフ」
「シャー!」
荒木が吠えた。
サヨナラだ。
2−1で河北工業を下した国浜は5回戦進出。
初のベスト16入りを決めた。
翌日、小林は病院に来ていた。
「先生、俺投げられますか?」
「安心して下さい、数ヵ月安静にしてれば投げられますよ」
「そうですか…」
「そんな暗い顔しないで下さいよ、休養をとれば投げられるんですから」
これで小林は夏はおろか、秋の県大会の出場も絶望的になった。

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