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球児の夢
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球児の夢 5

「…頼んでみるか、一応」
翌日またグラウンドの外に蒲原の姿があった。島中監督と葵は早速コーチをお願いした。しかし蒲原の反応は鈍い。退任した時点で高校野球には携わらないと考えたからである。
「あいつらに野球の素晴らしさを教えてやって下さい」
島中監督は頭を下げた。葵もそれにならう。
「…私はもう隠居した身だからな」
「でも、昨日中村先輩を指導してくださったじゃないですか」
「それは見てて勿体ないと思ったからだ」
「そういう気持ちがおありならお願いします」
二人は改めて頭を下げた。
「どうして地元の高校はこうも弱いのかねぇ、指導が足りないんじゃないか」
蒲原は島中監督にチクリと言う。
「はい、おっしゃるとおりです」
「私は厳しくやるぞ、それに選手がちゃんとついてこれるのか?」
「ついてこさせます!絶対に」
葵が力強く言った。
「フフッ、元気なマネージャーだな。では、一肌脱いでやるか」
「ありがとうございます!」
二人は再び頭を下げた。葵は心から喜んでいた。小山・大橋の離脱で今年の夏の甲子園は無理かと思われたが、中学時代のエースが復活し更に名将がコーチになるなんて…。
甲子園も夢じゃないかも。しかし、現実は甘くなく急に強くなるはずはなかった。とはいえ、蒲原は今までにないくらいのハードな練習をさせた。大半の時間をランニングと守備練習に費やした。試合の流れは守りからつくるということを熟知しているからだ。その一方で蒲原は葵から各選手の特徴を聞いていた。蒲原の方針は選手の長所を伸ばすことである。パーフェクトな選手をつくるのは難しいが、一芸に秀でた選手をつくるのは難しくはない。なぜなら、その選手の長所だから鍛えれば伸びやすいのである。
あまりの練習のハードさに嘆く部員もいた。
「こんなに厳しくやったって甲子園なんて無理だって」
「あの二人が抜けちゃったんだから尚更…」
「…お前らいい加減にしろ!」
普段は寡黙な三年生キャッチャー沢井が吠えた。
「あの二人がいないからこそあいつらの分まで俺達がやんなきゃダメなんだ、甲子園に行けなくても俺達が死力を尽くしたっていう証をあいつらに見せてやるんだよ!」
「そうは言っても…」
「…あれを見ろ」
沢井の指す方向にまだ練習をしてる小林や荒木の姿があった。
「あいつらの気持ちも潰す気か?」
「…そうだよな…やるだけのことはやらないとな…」
このとき沢井は思った。このチームは変われるかもしれないと。

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