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リベンジャー
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リベンジャー 3

「二年前、全中に出ていた、よな?」
「!!」
瞬間、光輝の身体が強張る。その様子に確信を得たかのように鈴音は続ける。
「私の中学の監督が全中の試合を撮影したビデオをくれたんだ、準々決勝の試合でな、二年生エースが完封していた。そのエースの名前が『黒崎光輝』」
「・・・はぁ、まさかあの試合を覚えてる人がいるとはね」
「やっぱり、そうなんだな?なら、どうしてファーストなんだ?しかもあの時はサウスポーだったはずだ!一体、何があったんだ?」

暫くの沈黙の後、光輝はユニフォームの袖を捲り左肘を見せる。
そこにあるのは小さいながら紛れのない手術痕。
「・・・左肘靭帯損傷、日常生活に支障が無くなるまでに二ヶ月位かかったよ」
「・・・すまない、悪いことを聞いてしまったな」
「気にしてないよ、もう完治してるんだし。それに、俺はこんなところで終わる気は毛頭ない!」
瞬間、光輝の口調が強いものに変わる。
「俺はもう一度、マウンドに上がる!軟式で復活して、大学野球界に殴り込んでプロになる!野球に対してリベンジする!俺は、リベンジャーになる!!」
それは堅く強い信念の声。鈴音は言葉を失い光輝に目を奪われていた。


(リベンジャー・・・か)翌日、鈴音は授業を受けながら昨日の光輝との会話を反芻していた。軟式の水桜に来たのはゆっくりじっくりと復活へ向かうためだと彼は語った。(あの球をこの目で見られるようになるのかな?)ビデオで見たときから鈴音は光輝の投げるボールに魅せられていた。(捕って、みたいな。私だって捕手なんだし、投げてくれるかな?)
「水木!聞いてるのか!」授業そっちのけで考えに耽っていたため教師からの叱責が飛ぶ。すみませんと一言詫びると教師は解説を再開する。
(学生の本文は勉強だな)
授業中にも関わらず考えに熱中してしまったことを反省しながら今度は真面目に教諭の言葉をノートにまとめていく。そのノートは要点が美しくまとめられており彼女の成績がいいことを伺わせる。それもそのはず入学試験をトップの成績で通過したほどの頭脳の持ち主なのだから。その頭のよさが彼女の飛び抜けた野球の実力を支えている一因でもある、目の良さも併せ持つ鈴音は球種と球道を読み切りボールの来る場所にただバットを差し出すことでヒットを量産しているのだ。
キーンコーン・・・

授業終了のチャイムが鳴ると生徒たちが互いに誘い合わせ昼食の準備を始める。鈴音にも声をかけてくる者もいるが鈴音はそれを断り屋上へと向かう。昼食は風を感じながら食べるのが彼女の習慣になっている。
「誰もいない、な」
少し肌寒さを感じるが、苦にはならない。涼やかで澄んだ風を独り占めできるのは気分がよかった。

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