最果ての城 10
マラナは頭を振り、頭の中のもやもやを追い払った。
「よし、早く髪を落としてこい」
「おうっ!」
人狼の身体能力は凄い。怪我をしているにも関わらず風の様に行き、風の様に戻って来た。その間五分。但し傷口が開きかけてその倍タイムロス。
「いくぞ、あまりもたもたしてられん。先ずは国立図書館に寄るぞ。レニチケまで真っすぐだとは思わん事だ」
「分かってるって」
こうして、旅の道連れにレオが加わった。
図書館に着くと、魔法動物学者のカノープスが出迎えてくれた。
「遅かったじゃないか。私は一週間も前からここで待ってたんだぞ」
「何故私がここに来ると?」
「いや、大佐殿から話を聞いてな」
ギルバートとカノープスは仲がいい。
「それなら最初に来るのはここだろう、と思ったんだが……違ったようだな」
そこまで言うと、レオをちらりと見て声を潜めた。
「人狼か?」
この人に隠しても無駄だろう。
「そうだ」
「やはりそうか。長年見たいと思っていた……」
しげしげと眺める。レオがあからさまに嫌そうな顔をしていようが、お構いなしだ。
「チップの読み取りをするんだろ?そこに私の助手がいるから、話はそいつに聞いてくれ。私はこの……」
「レオ」
「レオ君に質問がたあくさんあるんでな。借りてくよ」
カノープスはそれだけ言うと、嫌がるレオを引っ張ってどこかへ行ってしまった。
「やれやれ……だね」
マラナが背後からの声に振り向くと、十五、六歳の少年がいた。全体的に細く、顔立ちも整っている美少年だった。色が白くて髪が長いので、一瞬見るだけでは少女のようにも見える。
「カノープスの助手か?」
「はい。ヰ゛・ヰルタ・ハトです」
「は?」
変わった名前だ。
「……思い出した、アヴィザイア人の名前だ」
アヴィザイアとは、ここから遠く離れたヴァラキアの植民地の事である。
「当たり。良く知ってるね」
どちらかの親がそうなのだろう。よく見るとアヴィザイア人の特徴が、薄いが随所に表れている。
「最初に言う事は言っておくよ。魔狼なんて殆どの地域で絶滅が確認されているんだ。いるとしたら、アヴィザイアかクレザムか……ちょっと借りるよ」
ハトはチップをひったくり、機械に読み取らせに行った。小走りになって追うマラナ。
追い付くと、ハトは画面を眺めていた。
「リキル=カハリ位だね」
アヴィザイアは魔法動物の宝庫。クレザムもリキル=カハリも魔狼が好みそうな遺跡がたくさんある。
「後、個体数が二桁あると思っちゃ駄目だよ」
「そんなに減っているのか……」
ツナは『みんなはもういない』と言っていたが、ツナの周りの話だけではなかったのだ。