契約 4
名前は「優子」,優しい人になるようにと願い,付けた
勿論,この願いは悪魔にたのんではいない
男は触覚を失ったことにより,車椅子生活になっていた
ぶつかっても,火傷しても分からないのだ
足を何度も挫き,足首は,もう曲がらないようになっていた
結婚生活も,些細なことで口喧嘩が起こるようになった
男は,結婚生活している誰もが通る道だと受け入れながらも,
やはり,喧嘩は起きてしまう
今日もまた喧嘩だ…いつもより怒っている
「…は,私や優子のことを考えてない!!」
特に理由が思い付かず,言い返すこともせず
散歩に行くことにした
「ユウもパパと散歩に行く」
子供ながらも,いつもとは違うことに気付いたのだろう
私は車椅子で優子と散歩していた
ふと思い出した
今日は,結婚記念日だったのだ
自分に非があることに気付き,
彼女に謝り,3人でお祝いをしようと決めたのだった
優子は,散歩が楽しいらしく
私と手を繋いではしゃいでいる
しかし,手には何の感覚もない…
優子とは,小学生になったら
どうしたいか,という話しで盛り上がっていた
男は,優子がかけっこが速いのが自慢で
陸上選手になるんじゃないかと
なんとも親バカな想像をしていた
「優子は,足が速いからスポーツの部活に入ったら活躍するぞ」
それを聞いた子供は,目を輝かせながら
手を放し,男の周りをくるくる走り回った
男が幸せに感じていると
何時の間にか交差点まで来ていた
子供に注意しようとすると
大きなトラックが…子供は父である
男を見ていて全く気付かない
男は立ち上がり,子供に飛びつき
守るように抱きしめた
しかし,トラックはいっこうにぶつからない
いや…男は飛びついたはずなのに,まだ地面に着かないのだ
((よぉ…多分最後の願いになるから時間を止めてやった))
この声には,やはり慣れない
((お前は,馬鹿だな…飛びつく前に願えば良かったんだ))
確かにそうだ,一人を助けるなら,一つの感覚でよい
二人なら…
男は考えた
(もし,ここで娘と俺を助るように願っても,五つ目の願いを叶えた時点で俺は死ぬ…)
男は悪魔に質問した
(俺の願いを誰かに譲渡することは出来るか?)
悪魔はニヤリと笑い答えた
((あぁ,出来るぜ))
更に男は質問した,
(もしその人が願いを叶えた時,五感はどうなる?)
((五感はお前からもらうから,願いの代償は要らない……だか,そいつにが強く願ったものを勝手に叶えるぜ,俺はそいつにいちいち教えることはしないから))
男は望みを悪魔に願った
(一つはこの子を助けてやってくれ…出来れば無傷で)
((あぁいいぜ,今日は気分が良いからな…もう一つは?))
(願いはしない…この権利を妻に譲る)
((つまり,お前はトラックで死ぬってことだな?…分かった))
悪魔はしばらく沈黙し 質問した