契約 5
((この願いは誰の為だ?))
男は,笑顔で答えた
(カナと優子…これから出会う人達の為だ)
(……そうか)
しばらくし,光に包まれた
…………
(温かいな…悪魔の胃袋は温かいんだな…まさか,久しぶりに熱を感じたら,悪魔だったなんて笑えるな)
何故か呑気に考えていた
しかし,ここはベットの上…男は戸惑いを隠せない
勿論,動くことは出来ない
(そうか,今日の悪魔は気分が良いんだった…最後に粋な計らいをしてくれたんだな)
男に意識が戻ったことで,妻が必死に手を握りしめる
男の頬には小さな温もりが…
「パパ…パパ…死なないで」
初めて感じる娘の体温
この時は,悪魔に感謝した
口の中もしっかり味が…血の味たが…これは仕方ないと諦める
妻も頬を寄せてくる…あの懐かしい香り…何十年も前の香りだ
男は,悪魔に感謝しながらも
いつかは終わるであろう時間なので
伝えることを優先させた
「カナ,優子…聞いてくれ」
「何?」
「優子は来年小学生だな…友達をたくさん作るんだぞ…ママの言うことをよく聞いて,助けてあげるんだ…分かったかい?」
「……分・か・った」
泣きながら返事をしてくれる優子に
優しく微笑みかける
そして
「カナ…いつも苦労をかけたな…カナには俺にとらわれないで欲しい…新しい幸せを強く願うんだ」
「…」
妻は泣いて返事が出来ないようだ…
………………………
<<ギャハハ…あんなに年数かけたのに,魂喰い損ねたんだとよ>>
{{何だって,順調だって言ってただろ?どんなヘマしたんだよ…ププ}}
「「うるせー,天使との契約があるだろが…それのせいだよ」」
[[おいおい,奴は,五感まで取り戻してるゼ…無駄働き御苦労なこったい]]
「「あの女が…喧嘩を止めてた時の男を願ったんだよ…付き合い始めた時のように,幸せな時間を返してってな」」
<<おぇ〜,胸糞悪りぃ願いだな>>
「「あの男だって,願いを妻に譲らなければ,魂を喰えたのに…糞天使の契約で台無しだ」」
天使と悪魔の契約…
願いごとの中に,一つでも利己的な願いが無いとき,魂には手を出してはいけない
男は,最後の願いを妻に譲った…これでは,利己的もなにもない…
女だってそうだ…自分の幸せを願っていたら,五感は奪えなくても
悪魔に願った代償で,魂しいは喰えたのに…
悪魔は最後に…
「「あんな,優しい人間の魂なんか不味いに決まってる…他にも人間はいるんだ」」
そう捨て台詞を吐き,どこかに行ってしまった…
数年後…あの家族を覗くと
笑顔の三人が,朝食を食べていたのだった