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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 24

 下半身に布団を引っ掛けたまま、ずるずると匍匐前進で電話口まで辿り付く。
「はい……若月ですが」
『やぁ若月クン、良い夜だね。その様子だとどっぷり夢の中に浸かっていたようだが、お目覚め如何かな?』
 良い子はぐっすり夢の中のこの時間にもかかわらず、テンションの全く落ちないこの語り口。
「観崎先輩――オレ、いつ自宅の電話番号教えましたっけ?」
『企業秘密』
「……いつから古文研は企業になったんですか」
『はっはっは、流石若月クン。起き抜けでもツッコミは冴えているようだね』
「答えになってませんってば」
『まぁ、そんな事はどうでも良いんだ』
「……なら寝かせてくださいよ。むしろ寝ます。お休みなさい」
『待て待て、短気は損気だ。キミに朗報を届けてあげようと思ってわざわざ連絡してあげたのに』
「……朗報?」
『そう、キミの抱えている問題に対処するべく、その筋のヒトと連絡が取れたんだよ。今すぐ駅前の公園に行くといい』
「成程、今すぐ駅前の公園……はぁッ!?」
『あまり大声を出すと近所迷惑だよ? ともあれ確かに情報は伝えたよ。信じる信じないは君の勝手だが、あの人はすでに君を救うために待っているだろうね。大丈夫だ、私を信じなくてもいいが、その人の事は絶対に信じてもいい。私の全存在を賭して保証しようじゃないか』
 その言葉ににじむのは、“あの人”に対する絶対の信頼と自信。
『――さて、私はもう眠いので先にお休みと言わせてもらおう。それでは若月クン、新たな出会いの後によい夢を』
「あっ、ちょっ、観崎先輩! 待っ……!」
 若月の言葉を待たずに回線は切断される。後には、呆然とする若月と、断続的な電子音を鳴らし続ける電話だけが残された。

 小一時間後。
「なんなんだよ、全く……」
 文句の言葉を吐き出しつつ、それでも律儀に待ち合わせ場所に来てしまう自分が情けない。
「うう、暗い寒い眠い……第一未成年がこんな時間にこんな場所にいたら深夜徘徊で捕まるっつーの」
「そうだな、警察署も近い。自首するのなら今のうちだ。罪は軽いぞ」
「ですよね――え?」
 ついつい自然に返してしまい、慌ててその異常さに気付く。若月が振り向いた先には……

 闇に溶けるような漆黒の髪が、月明かりを弾いて艶めく。すらりと高い背には、何か太めの棒のようなものを背負っている。
 そして何より、鋭く無機質な瞳から発せられている圧倒的な存在感。これをカリスマというのだろうかと、若月は漠然と思った。
 思わず呆けてしまった若月だが、すぐに我に帰るとその謎の女性から一歩引きながら、
「な、な、なん」
 しかし、今まで感じたことのない存在感と突然の出来事に、頭の中の言葉をうまく舌に乗せられない。
「何ですかあなたは、か? むしろそっちの方が何なんだといった感じだな。……観崎の言ったとおり、ずいぶん変わっているな」
「へ? ……観崎?」
 唐突に聞かされた知り合いの名前によって、ようやく順調に再稼動をはじめた思考に、再びフリーズがかかった。謎の女性はそんな若月を不審なものでも見るかのように眉を寄せ、
「何だ、聞いていないのか? 先ほど確かに伝えたと連絡があったんだが。……お前は若月彰じゃないのか?」
「え、あ、えっと……は、はい」
「それはどちらに対する肯定だ? ……まあいい。冗談などでなく警察に補導される可能性もあるからな、早めに本題に入ることにするか」
「……本題?」
 もはや本日何度目かも分からない疑問符を浮かべる若月。
「ああ。切り裂き魔に遭遇した事件の解決、それが観崎から聞いた話だったが?」
「はあ、――って、ええ!?」
 つまりは、若月が想像していた人物像とはだいぶかけ離れているこの人が、観崎の言っていた『その筋の人』か。にわかには信じられないが、そういうことらしい。

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