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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 15

 勢い込んで次の石を探そうと目を足元に向けた瞬間、若月は異変に気付いた。
 目に映るのは、蠢き形を変える己の影。
 動いているのだ。常識に逆らい、太陽へと向かって伸びている影が。
「――!」
 同時に脳裏に浮かぶのは先刻の路地裏の戦い、女がフツノを失った場面。
 地面に突き立てられたフツノ、それを引きずり込むのは影。
 そして今、自分の足元、いや、ほぼ周囲すべてへと広がっている影は明らかに普通ではなく――
「うわぁぁぁっ!?」
飲み込まれていく。足がまず没し、徐々に、だが確実に影はせり上がってくる。
足を引き抜こうともがけば、もう片方が引きずり込まれるという生殺しの悪循環。
――蟻地獄。そんなイメージが頭をよぎる。
「若月、動くな! ――ええい、鬱陶しい!」
女の方へ目をやれば、その足下にもまた影が広がっている。
獣の数は数えられる程に減ったが、足場の悪さは女の戦力を確実に殺いでいた。
しかも切り捨てられた獣は影に取り込まれ、更に影の領域を拡大させていく。

「…いい格好ね、ストーカーさん」

 声。それを契機に若月でも分かるほどの異常――歪んだ気配が生まれた。
 そちらを向けば、この世の理を歪める魔術師が、影の上に悠然と立っていた。
「……泥遊びの好きなお姫さまの登場か」
「ずいぶんな口ね。あなた達の命はワタシ次第なのに」
 言われて、周囲の影が意思を持ったかのように動きだした。そして盛り上がった影の一部が、先程の獣を形づくる。
 数は三、しかし、足下がおぼつかない今は十分すぎる脅威だ。
 命を握られている、その事実に改めて直面して、若月は全身の血の気が引いた。
 しかし女に動揺した様子は見られない。それどころか余裕さえ感じられる微笑を浮かべて、
「泥遊びで気に入らないならお人形ごっこか。確かに癇癪持ちのお姫様にはうってつけの能力というわけだ」
 魔術師の表情が凍りついた。わなわなと拳を震わせると、やおら若月の方へと向き直る。
「あなたの無礼の報い、彼に負ってもらうわ」
 パン、と一つ手を叩く。すると、若月の足が吸い込まれつつある影の中心が急激にへこみ、大きなすり鉢上の構造を形成する。
「あ、あれって……」
 擂鉢の底が視界に入った瞬間、若月の背中に怖気が走った。そう、擂鉢の底では影のような蟻地獄が牙を研いでいたのだ。
「くっ!」
 なんとか中心部から遠ざかろうと必死に足を踏み出すが、どんなに足を動かしても、離れるどころか僅かずつそちらに引き込まれていく。
「ふふふ、あがくだけ無駄よ。身のほど知らずの虫けらは恐怖を抱いて沈みなさい」
 若月の恐怖心を煽るためか、一気には引きずり込まずにジワジワと足下を崩しながら、少女は笑う。
「怖い? 逃げたい? でもダメ。あなたはここで死ぬのよ。あの女のせいでね。ああ、かわいそう。あんな女と一緒にいたせいでこんな目に合うなんて。せいぜいあの女を怨みなさい」

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