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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 14

 全力でもって考え始める若月。その瞬間、まるで謀ったかのように獣が飛び掛かってきた。
「っ!?」
 咄嗟のことに反応しきれていない若月の眼前で、二つの動きが起きた。
 一つは何かが中空に銀弧を描いたこと。
 そしてもう一つは、その銀弧の線上にあった獣の体が、突然上下に別れたこと。
 やがて一瞬遅れて思考が追い付き、女が一薙で切り伏せたのだと気が付いた。
「あ、ありが――」
 慌てて礼を言おうとしたが、女は感情の見えない視線でそれを遮り、
「五分。それ以上掛かるようなら守りきれる保証はないぞ」
「ごっ、五分!?」
「そうだ。――悔いは残すなよ」
「そんな……」
「無駄口を叩く暇などないだろ。昼は無能な若月」
 そう言いながら、また一匹の獣を両断。
 若月はその背を見ながら、あることを考えた。
 昼は無能、それは月が出ていないから。なぜなら、ツクヨミの使用は月明かりの下のみという制限があるからだ。
 そして若月の知るかぎり、異界の法則を扱うには同じように何かしらの制限がつく。
 すなわち、この土人形達も歪みによって体を形作られているのならば――
(絶対に何か制限があるはずだ。こんなに大量に、しかも同時に操れるとは考えにくい。
 攻撃はかなり正確だ。威力も落ちていない。だとすれば、犠牲になるのは……)
「――若月ッ!」
 女の切羽詰ったような声が響く。見れば、孤軍奮闘する彼女の脇を掠め、一回り小さな獣がこちらへと迫っているではないか。
「う、うわぁぁぁぁっ!」
 咄嗟に近くに落ちていた握り拳大の石を、獣目掛けて投げつける。石は真っ直ぐに獣の眉間を捉え――

 ぐしゃり。

「あれ……?」
 なんと、石は見事に獣の頭を粉砕してのけたのである。たちまち獣の残骸はただの土塊へと変わる。
 おかしい。
 いくら大きめの石だったからといって、咄嗟で、さらに態勢も崩れた状態での投石の威力などたかが知れている。
 しかし現実に、石は確実に獣の頭部を破砕した。それから判断できるのは、
「……まさか、そんなに丈夫じゃない?」
 若月は事の真偽を確かめるべく、再び手ごろな石をつかんだ。
 そしてなるべく小さな獣に狙いをつけ、小さく深呼吸をする。
 四肢は攻撃に使うであろうから、それなりの耐久力がなければ話にならない。よって、狙うは頭。
「ふッ!」
 声と同時に思い切り石を投げつける。低い放物線を描いた石は狙いから僅かに逸れたものの、獣の横頭部に命中する。

 ごすッ!

 鈍い音と同時に大きく獣の姿勢が傾ぎ、どさりと地に倒れ伏す。次の瞬間、その身体は崩れて漆黒の土へと還った。
(やっぱりそうだ。これなら俺も戦える!)
 思わぬ発見に思わず興奮する若月。しかし、それが大きな油断となった。

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