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All right
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All right 28

「うわごめんっ。……てか大丈夫?」
 茜の心配の言葉に、肩で息をしていたさくらは顔も上げずに右手の平を向け「しばし待て」のジェスチャー。やはり辛いらしい。
 だから茜はさくらが人心地つくのを待った。さくらはその間にたっぷり深呼吸して落ち着くと、
「――まったく、いきなり走りだすんだもの。即決なのはいいけど、もう少し落ち着こう? 無闇に突っ走っちゃダメよ」
「だって、いてもたってもいられなくて」
「それ、言い訳?」
 さくらからは思いのほか厳しい言葉が返ってきて、茜は小さくなった。
「さっきの人たちが犯人だったらどうするつもりだったの? 何か危ないことされてたかもしれないんだよっ」
「いや、それは。男子は校舎に入ったし、女の子だったしさ。大丈夫かなぁーって」
「あ・か・ね!?」
 にじり寄るさくらのあまりの迫力に、茜は、うっと言葉に詰まった。
 視線を逸らし、黙る。
 さくらの視線が痛かったが我慢した。
 だけど数秒経ち、重々しい沈黙に耐え切れずポツリとつぶやいた。
「……心配させて、ごめんなさい」
「解ったなら今度からは一人で飛び出したりしないこと!」
「善処します……」
 まるで親と幼い子どもの会話だ。だがいらぬ心配をかけたのは事実で、ついでにさくらの言ったことは正論だ。そう思って茜はますます小さくなる。
 さくらは、決まりの悪さからひたすら縮こまる茜を真剣に見つめていたが、不意に肩の力を抜いた。
 小さくため息。
 そして顔を背けて、まるで自分に言い聞かせているかのような小さな声で、
「――茜は独りじゃないんだから、ね」
 はっ、とさくらの顔をうかがったが、そこにはわずかな感情しか見当たらず、それすらも何という気持ちであるかに思い至る前に消えてしまった。
 それでも。わずかしか見ていなくても、例え思い込みだったとしても、そこにあったものを茜は知っていた。
 同時に茜は、この心配性な友人の想いが確かに伝わってきたと感じた。
 それは今まではそばにあることに気が付かなかったもの。そして、さくらが気付かせてくれたもの。だから紡がれた言葉も、向けられた視線も、そして隣を歩んでくれる友の存在も、今の茜にはしっかりと解っている。
 何も言わず、何もせずとも、彼や彼女や様々なものが快い支えとなってくれていることを、もはや茜は見落としはしない。絶対に。
「みんなのとこ、戻ろっか。」
校舎に映る夕焼けを眺めながら、ポツリとそう呟く茜。
「…そうね。」
いつ、そう言い出そうかと考えていたさくらは、その言葉に少し驚く。しかし何かを振っきったような茜の瞳に、穏やかな笑みを返した。
─ちょっとは茜も大人になったってことかしら。
嬉しい反面、少しさびしい気もした。


「走ってく?」
軽くストレッチをしながらそう尋ねる茜。

…前言撤回。
「本当、ぜんっぜん変わんないわね。」
「冗談だってば。…でも、意外とさくらって足速いよね。」

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