遠距離恋愛 8
「なんでもお見通しかよ」
「まぁね。」
と、そこで今度は圭介の携帯が鳴った。
『お、なんだ久しぶり!』
どうやら電話のようだ。
わりぃ、と小さく呟いて、席を外していく。
(長くなるな、たぶん)
そう確信した智は、ようやく綾にメールを返すことにした。
部屋に今流行の曲が響き渡る。キッチンで洗い物をしていた綾は慌てて手を拭きながら、音の鳴った部屋に向かう。
「きたきた〜。えっと。」
「こんばんわ。遅くなってゴメン。実は今日、久しぶりに友達と飲んでるんだ。良いこと続きなんて、羨ましいよ〜。オレはその逆かな?」
智からの返事が妙に素っ気なく感じられた。
「そうなんだ。じゃ、今日はごゆっくり!またね☆」
綾はメールを自分から無理やり終わらせていく。
そっか、と小さく呟いて、再びキッチンへ向かう。少し動揺している自分がいて、カップを思わず落としそうになった。
「…っと、セーフ!」
なんとか綾の手に納まる。
このカップは去年の誕生日に咲からもらったもの。綾の大のお気に入りで、毎日のように使っている。
ほっと一息つき、今度は細心の注意を払って、布巾で滴を拭ってゆく。
そして、ソファーの上に無造作に置かれた携帯を見つめる。なにか複雑な想いが交錯して、なんとも言えない気持ちに戸惑っていた。
ちょうどその頃―
『久しぶりだね…』
「ホントだな、あれ以来…だから、3年振りか?」
『だね…。それにしても番号変わってなかったんだ。繋がらないって思った。』
「替えんの面倒だしな」
『フフッ…出たよ!圭介の面倒病!』
「…で、どうした?」
核心を突くには時間がかかると思い、圭介が話をわざと逸らせる。不安と期待の両方が心を渦巻き、それを掻き消すようにタバコに火を点け、壁にもたれた。そしてゆっくり息を吐く。
『……タバコ吸ってるな!いい加減止めなって。』
「いいから、本題入れよ」