遠距離恋愛 6
マスターに言われて綾は我に返った。
「は、はい!マスター!じゃあお先します。咲さんによろしくお願いします…」
そう言うと綾は足速に裏へと向かったのだった。
駅前で買物をし、自分の家に帰りついた綾。
買物中も何だか朝のお客が気になってしまい、ぼーっとしていたようで、切らしていた紅茶の葉を買うのを忘れてきてしまっていた。
「あ〜…明日の朝のお茶がない…」
しばし悩んだ綾だったが、
「でもいっか。明日もお店で飲もうかな…?あのお客さんにも会えるかもしれないし。」
無意識にそう考えてにこにこしているのだった。
「こんばんは。今日は朝から少し楽しかったんだよ〜!智さんは今日一日どんな日だった?」
今日の夜も綾は智へとメールを送信する。
程なくして智からの返信。
「こんばんは。お疲れ様!俺は朝からドジしちゃってさ…恥ずかしかったよ。」
「智さんでも恥ずかしいことあるの?私なんか毎日恥ずかしいよ。」
「毎日…!?綾さん仕事何してるの?」
送信してから智はハッとした。
「しまった…!!綾さんのこと、自分から聞かないって決めていたのに…!」
そんな智の心配は綾の返信によって打ち消された。
「仕事は接客なんだ!毎日いろんなことがあって楽しいよ。失敗もあるけど。」
(…良かった〜。少し心を開いてくれたかな?)
智はひとまず安心をし、またメールを返す。
「オレはフツーの会社員だよ!最近は仕事が不規則で、朝早かったり、夜遅かったりだけどね。」
一方…
綾は話を聞いて欲しいという気持ちが芽生えてきた。もちろん今日の出来事があってのことだが。
(こういうの話すときは、逆に話しやすいかも〜)
マスターや咲では、からかわれるのがオチだからだ。
智の質問をきっかけにその日はお互いに質問をした。少し相手が見えてくるようで、ふたりとも楽しみながらのメールだった。
《智は26歳、一人暮らし。嫌いなもの、ピーマン。未だにマガジンを読んでいるということ。》
《綾は24歳、一人暮らし。趣味はビーズでアクセサリーを作ること、いろんな紅茶を楽しむこと。》
たったこれだけでも、お互いに満足のいく時間だったようだ。今までで一番と言っていいほど、充実した内容で今日が終わり、“また明日、おやすみなさい”と結んだ。
―翌日。 綾は昨日と同じ時刻に出勤したが、昨日と同じ客は結局夜まで現われなかった。
「…残…念っ。」
がっくりうなだれる綾。
「綾ちゃん、気を落とすな〜!彼、不定期なんだよね、来るの。今度、情報収集しとくからさ、ね?」
マスター必死の策が功を奏し、なんとか持ち直したようだ。
「じゃ、お願いします!
今日は紅茶の葉、買って帰ろ〜っと。お先に失礼しま〜す!」
そう言うと、綾は裏口へ消えて行った。
マスターと咲はその様子を見て、一安心と言わんばかりに目を合わせ微笑んだ。