遠距離恋愛 5
お昼前―。
「おはようございます!」
元気な声が店にこだまする。綾の先輩にあたる咲が出勤してきたのだ。
「おはようございます、咲さん!」
「綾ちゃん、おはよう!今日はどう?混んでる?」
「モーニングがメープルなんで、混んでましたよ〜」
「そっか、今日も一緒に頑張ろうね〜」
「はいっ!!」
綾にとって、咲の存在は大きい。綾とは正反対の性格でサバサバとしており、なんといっても仕事ができる。てきぱきと順序よくこなす様を見て、尊敬の意を表さざるを得ない。
(咲さん、今日も超キレイ)
容姿も端麗で、マスターには悪いが、どうしてこんな店にいるのかわからない。同性の綾でさえ、うっとりするくらいだ。実際、咲目当ての客も少なくない。
「咲ちゃん、今日はラストまで大丈夫かい?」
「はい、マスター!ラストまで平気です!」
店は9時閉店。
綾は朝10時からなので、7時頃上がれることになりそうだ。
午後7時過ぎ―
「綾ちゃん、今日はそろそろ上がって。」
今日は客が少ないため、マスターがキリのいいところで声をかける。
(駅前で買い物して帰ろ。)
「は〜い。じゃ、失礼します。」
「今日は朝早かったしさ。気になる客もでき…」
マスターがそこでハッとして口をつぐむ。しかし、咲はそれを見逃さなかった。
「綾ちゃんにしては珍しいこともあるもんだね〜」
(マスターのおしゃべり!)
綾はマスターを睨み付け、マスターは両手でゴメンのポーズをとっていた。
「何?何?綾ちゃん、秘密は良くないわね〜?」
咲が笑顔で綾に近づいてくる。
「いや、その、えっと…、あの〜…」
綾は顔を真っ赤にしながら、後退りする。
「綾ちゃん〜?」
追い詰める咲。
「咲さぁん…!」
涙目になる綾。
(マスターも咲さんもいじわるぅぅ…!)
綾が心の中で叫んだその時、
カラコロ…
お客さんの来店を告げる音がした。
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ〜!」
三人同時の笑顔の挨拶。
咲は綾の前からすぐに離れ、接客に入る。
(咲さん、何事もなかったかのように…すごいな…)
まだ赤い顔をしている綾は、咲の立ち振る舞いをつい見つめてしまう。
「ほら、綾ちゃん!咲ちゃんが接客してる間におかえり。チャンスだよ。」