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遠距離恋愛
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遠距離恋愛 24

「大丈夫だって!忘れてないって!咲との約束、忘れたことないだろ?」
確かにそうだ、と咲は思う。
「咲?聞いてる?」
「聞いてるよ。」
咲は涙をぬぐう。
「その通り、その通りよ。だって久しぶりなんだもん…圭介に会うの。」
電話の向こうで『ごほん』と咳払いをする声が聞こえた。
「そうだよな。本当、久しぶり…」
「うん」
「じゃあ、話の続きは夜にな。6時に待ってるから。」
「遅刻してこないでよね〜?」
「まさか!」
圭介の笑い声が聞こえる。
「じゃあ、電話切るね?圭介。」
「ああ、じゃあな。」
咲は携帯を閉じた。

携帯を閉じて一息つく。
今度はしゃがみ込まずに、空を見上げる咲。
「圭介には勝てないなぁ…」
つぶやいた咲の顔は、いつもの笑顔になっていたのだった。


「じゃ、お先に失礼し…」
 と、言いかけて、咲は綾の視線に気づく。
「咲さん、今日は一段とキレイですよぉ…」
「そんなことないよ?」
 咲はおどけて見せたが、そこは女同士。メイクの違いなどはお見通しの様子。
実際、今日は気合いの入った服にしようとしたが、結局のところは、圭介の好んだ咲らしい格好になった。

「じゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
 綾とマスターが同時に声をかけたので、お客さん達もこちらを伺ってきた。
 咲はその様子に舌をペロッと出し、手を振って外に出ていった。
 咲は少し歩くと、通りのウインドーに映る自分を見やった。いつもは花屋の場所が今は巨大な鏡になる。
 前髪を整えて、にっこり笑うと、また歩き始めた。
(やばっ…すごいドキドキしてきた…)
 やっと会える―。
そう思うと、鼓動が早くなっていくのがよくわかる。

 駅までの道が早く、遅く感じる中、咲はバッグをギュッと強く抱え、立ち止まって漆黒の空を仰いだ。今日は星が幾つも見える。
「…圭介」
 そう呟くと、駅までの道を急いで歩いて行った。

待ち合わせの場所、少し早めに着いてしまったのは圭介だった。
「あれ…?もしかして俺の方が先?」
咲と付き合っていた頃、いつも少し早めに来るのは咲だったのだ。
「これじゃあ、俺の方が気合い入ってるみたい…」
「誰が気合い入ってるって?」
声がして、振り返ると真後ろに小首をかしげた咲が立っていた。
「いや、何でもない…。それより咲、久しぶりだな。」
「そうね。久しぶり…圭介。」
少しはにかみながら咲は言う。
そんな咲の表情を懐かしく感じる圭介。
2人の間をしばしの沈黙が流れる。

「…圭介?」
「…ん?ああ。」
「私、お腹空いちゃったよ。早くごはん食べに行こ?」
咲がそう切り出す。
「そうだな、じゃあ行こうか。」
「うん!」
笑顔を見せる咲に手を差し出す圭介。
「ほら、手。」
「え…?」
少し驚いた様子で躊躇している咲だったが、ゆっくりと圭介の右手に自分の左手を乗せた。
「迷子になると困るだろ?」
咲の顔を見ないまま話す圭介に、咲は満面の笑顔で答える。
「うん!」
そして、小さい声で…。
「…ありがとう…。」
そう繋げたのだった。

圭介に手を引かれながら歩く咲は、圭介への思いが入り乱れていて複雑だった。

(今までどこにいたのよ…?)

圭介のことを追いかけて、この街へ来た3年前。
ずっとずっと探し続けて、疲れて諦めかけていたのに。
あの日…。
こんな簡単に電話が繋がって。
上手く話せなかったけど、本当は嬉しかった。
まだ、圭介と自分は繋がっているのかもって思えた。
でも…。
もう圭介には他の女の人がいる…?
そうかもしれないのに、圭介は私を誘ってくれた。
私はそれに応じている。
どうなっているの?

会えて嬉しいのに、
手を繋いでいて嬉しいのに、
笑顔でいる咲の心は乱れていた。

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