遠距離恋愛 25
「ん?咲?どうかした?」
シックな感じのレストランで、向かいに座った圭介が咲の顔を覗き込みながら言う。
「え…、う、ううん。何でもないよ。」
いつもの笑顔で、咲は圭介にそう言った。
つもりだった。
「咲。何無理してんだよ?もっと普通にしてていいんだよ?」
真面目な顔で圭介は言った。
「私は何にも…」
「ウソつくなよ。咲はもっと自然に笑えるだろ?俺の前でそんな顔するなよ…。」
圭介の声は少しかすれていた。
「俺、咲のこと…」
「いいの!圭介。」
圭介の声を咲が遮る。
「私、3年もずっと圭介のこと探してた。…今思うとちょっと変よね、私。
あれからね、他の人とも付き合ったりしたけど、やっぱり…」
「咲…ごめんな…」
「どうして謝るの?」
咲の声が少し大きくなる。
周りの客が怪訝そうに咲を見るが、咲は気にならない。
「私、疲れちゃったの。圭介と会えて嬉しいけど、でもそれからどうなるか自分でも分からない…!」
「咲…」
「だから、今日で会うのはもう終わり。私の圭介との恋ももう終わり。さよなら、なの。」
咲の右頬を涙が一筋、伝った。
「えっ?おい咲」
慌てふためく圭介をよそに咲の涙腺は緩んだままだ。
ぐるぐると感情が渦を巻いて、気持ちはわかっているけれど、涙が止まらないでいた。
ガタンと勢いよく音をたてて、圭介は席を立った。すぐさま咲の手を取り、レストランの外へとずんずん歩いていく。
「…け、圭介?」
咲は呆気にとられ、慌ててバッグを片手に取り、手を引かれるまま付いていった。
ふたりは無言で通りを歩き続け、しばらくして圭介が歩くのを止め、咲のほうへ向き直った。
「…咲。オレの話を聞いてくれる?」
ガードレールに腰をかけ、視線を落とし、圭介は静かに話し始める。
「…うん」
咲は真面目な圭介の横顔を見つめ、隣に並んだ。
「うん、話して?」
咲は乾き始めた頬を拭って、圭介を促す。
(…やっと、本当のことがわかるんだ…)
ドキドキしながらも、待ち望んだ話に耳を傾けた。
「ああ。…あの時、さ」
圭介がまた口を開く。
記憶が遡り、3年前のあの日が一気に咲の頭の中を駆け巡っていった。