遠距離恋愛 22
その後二人の話は盛り上がり、気づけば1時間を過ぎていた。
「あ!智さん、ごめんなさい…こんなにお話してしまいました…」
「いいのいいの!綾さんの声が聞きたいのは俺なんだから、気にしないで」
「でも…」
綾が気にしてくれていることは嬉しいのだが、電話をかけたのは自分なのだから、当然と言えば当然。
「いいから、いいから!」
「う〜ん…」
「いいの!明日モーニングコールして貰うんだから、それと引き換え、ってことで、ね!」
「そうですか…?」
「うんうん。」
綾は困っているようだが、智は明日の朝も綾の声が聞けるのをうまく確認することができて嬉しい。
「分かりました。じゃあ、明日も起こしますね〜」
「お願いします。」
「はい!」
「じゃあ、綾さん。そろそろ電話切るね?」
「はい…」
心なしか、綾の声が寂しそうに聞こえた。
「綾さん?」
「はい」
「もし、もしもだよ?もしも寂しかったり不安に思っていたりしたなら…俺に電話してきてもいいんだよ?」
「え…?」
「朝でも昼でも夜でも…真夜中でも。俺は仕事中でも結構電話に出られるから。夜も起きられるし。」
「…智さん…」
「それだけ、言っておくね。じゃあ、おやすみなさい!」
「おやすみなさい…智さん………」
「おやすみ。」
…
…
ツーツー…
綾は驚いていた。
どうして智は急にそんなことを言い出したんだろう?
自分の心を智に見抜かれてしまったような、心の声が智に聞こえてしまっているような、そんな気がしたのだ。
寂しがりやの綾にとって、さっきの智の言葉は今までのメールや電話の中で一番嬉しいものだった。
(智さん…ありがとう…)
さっきの電話の最後で声には出せなかった感謝の気持ち。
綾は携帯を胸に抱き、そっと目を閉じた。
(綾さん、ゆっくり寝られるといいんだけど)
智は電話を切った後、携帯を片手に横になった。
朝は嬉しすぎて気づかなかったのだが、携帯から聞こえてくる綾の声はどことなく寂しそうな、壊れてしまいそうな、そんな気がしたのだ。
(大丈夫かな…)
さっきは綾に『電話してもいい』だなんて言ったのだが、本当は自分が綾のことが気になっているのだ。
(このままじゃ、俺から電話しそうだな…)
手に持った携帯を見た智だったが、また明日も早く起きなければならない。
それに、明日も綾が起こしてくれるはず。
(…寝るか)
智は携帯を枕元に置き、布団をかぶった。
「智さん!おはようございます!」
「…あ…綾さん、おはようございます…朝から元気だね〜」
「はい!良く眠れましたから。」
「そっか、良かったね〜!」
昨日と同じ時間。
3回目のコールで智が出た。
智の言葉もあってか、綾は昨夜はしっかり熟睡できたのだ。
いつもはなかなか起きられない綾が、目覚めもすっきりで朝から日中の元気が出せるのはめずらしい。
「智さんは朝からまたお仕事なんですか?」
「そうなんだよ…だからってその分早く仕事終わるわけでもないんだよね。」
「大変そう…ですね。無理しないでくださいね。」
「はは…ありがとう」
朝からそんな他愛のない話をしている二人。
「智さん、今日はお話これくらいにして出勤の準備しませんか?」
綾は昨日の朝のことが少し気になって、智にそう切り出してみた。
「そうだね、準備しよっかな?」
智があっさり言うので、少しほっとする。
「じゃあ…またメールしますね。」
「うん!あ、でも俺は電話しちゃうかも…あ。」
「え?」
「あ、いやいや。何でもないから!じゃあ行って来ます!」
「行ってらっしゃい、気をつけてくださいね!」
「うん、じゃあね!」
…
…ぷつ。
綾は智が電話を切る前に自分から電話を切った。
(智さんってば…)
顔が赤くなっている。
智の『電話しちゃうかも』に反応してしまっているのだ。