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遠距離恋愛
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遠距離恋愛 14

「そうなんだ…」
彼はちょっと嬉しそうな、それでいてちょっと引きつった顔をした。
「あ、コーヒーお願いします。」
「はい、かしこまりました」
一礼をし、咲がカウンターへ戻ろうとすると、
「すみません」
と呼び止められた。
「…やっぱり、紅茶お願いできますか?」
「え?あ、はい。いいですよ〜!でも、今日はコーヒーじゃなくていいんですか?」
「ちょっと、飲んでみようかなって思って…」
そう言って彼はお冷を一口飲んだ。
咲はにっこりと笑うと、
「マスター!紅茶お願いしま〜す!」
と少し大きな声で言ったのだった。

「え?紅茶のオーダー?」
この喫茶店ではあまり紅茶のオーダーが入らない。
ほとんどがコーヒーのオーダーなのだ。
綾はあまりコーヒーを飲まないので、
紅茶のオーダーが入ると自分が飲む訳ではないのに、なんだか嬉しくなってしまうのだった。
「ちょっと早目に戻ってきて良かった!どんな人がオーダーしたんだろう…?」
好奇心もあって、綾は裏手からお店を覗いてみることにした。


「紅茶、頼んじゃった…」
彼…智は少し緊張している。
(昨日、綾さんとメールしたときに、紅茶が好きだって話していたから…気になって)
智はコーヒー党なので、紅茶はあまり飲んだことがない。
(綾さん、紅茶を飲むと気持ちがほんわかしてくる、とか言ってたよな)
そんなことを考えながら、紅茶が運ばれてくるのを待っている。


「あ!」
綾はちょっとびっくりして声が出てしまった。
慌てて口元を押さえると、そのまま物陰に隠れる。
(あのお客様だ…!!)
びっくりして、嬉しくて…いろいろな気持ちが混ざり合い、とても緊張してきている。
心臓の音もどきどきと…
「こら、綾ちゃん。」
「ひゃっ!」
いきなり声を掛けられてさらにびっくりする綾。
小さくなってちょっと震えている。
見上げた目線の先にはマスターがいた。
「何か声が聞こえたな、と思って見に来てみたら…綾ちゃんだったんだね」
「あ…はい。声聞こえちゃってました?」
綾の言葉にマスターは苦笑する。
「ちょっとだけ、ね。咲ちゃんは気づいてないみたいだけど」
見ると咲は今淹れたばかりの紅茶をあのお客に出している最中だ。
「紅茶を頼んだのは彼だよ、綾ちゃん。綾ちゃんが今朝飲んだ紅茶と同じのをお出ししたんだよ」
見ていると彼は紅茶に砂糖もミルクもレモンも入れず、そのまま飲み出している。
「あの紅茶…おいしかったです…」
自然と綾の口から言葉が出る。
「綾ちゃんも飲むかい?まだ休憩時間あるけど?」
そう言ってマスターはカウンターに戻った。
カチャ…
「お待たせ。」
マスターは店内から綾のいる隣室へ紅茶を運び、スチール製のテーブルにそっとカップを置く。
「わぁ…すいません!」
セイロンの薫りが鼻をくすぐり、綾は誘われるように席に着く。
「じゃあ、ごゆっくり。」
「ありがとうございます」
綾はマスターが店内に入って行くのを見届けると、右手でカップを持ち上げる。
そして、口に含む。
「あ〜、やっぱ美味しい」
同じ葉を使っても、そこはやはりプロ。お湯の温度、葉の量、その他どれをとっても到底かなわない。

綾は一口毎にゆっくり味わっていたのだが、それでも美味しいものは早くなくなってしまう。あと一口…というところで、いきなり部屋に咲がやってきた。
「???」
「綾ちゃんっ!」
「咲さん、どうしたんですか?あっ、すいません。ひとりで紅茶飲んでて…」
咲は額に手をやり、大きく溜め息をつく。
「…そんなことはいいの!この前話してたの、あのお客様のことでしょ?」
そう言いながらも綾の腕をとり、無理矢理立ち上がらせる。
「え?…あ、あの…」
「いいからいいから!」
戸惑っている綾をよそに、咲は綾の背中を押し、店内へと押しやった。

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