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遠距離恋愛
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遠距離恋愛 13


「あの…ごめんなさい。」
綾は店の中に入り、思いきり深く頭を下げる。
「メモ忘れてきちゃって、戻ってきたら…。話は全然聞こえなかったけど、咲さん泣いてるから…」
「いいのいいの!こっちこそゴメンね、仕事やりづらかったでしょ?心配かけてゴメン!」
涙の跡は残っているものの、咲は何か吹っ切れたような表情をしている。
「それにね、今度から綾ちゃんを見習って頑張るんだー。」
綾はその言葉の意味は良くわからなかったが、いつもの笑顔にホッとする。
「さぁ、お仕事お仕事!」
と、立ち上がる咲。
マスターも“もう平気だよ!”と綾に目配せした。
「じゃあ、マスターすみません!私急いでお買い物に行ってきますね〜!」
綾はカウンター上のメモを見つけると、すぐに手に取り店から飛び出して行った。
「あっ綾ちゃん…!」
もう行かなくて良いのに、とマスターは思ったのだが、
今綾にそう言ってもきっと行く、と言うだろう。
「綾ちゃん、責任感も結構強いからね」
「そうね、あまり頑張りすぎて転んだりしないかしらね〜」
行ってらっしゃい、と後ろ姿を見送るマスターと咲だった。


それから数日後。
「マスター、おはようございます!」
「綾ちゃん、おはよう。毎日早いね〜」
綾は今日も朝早く出勤していた。
「ええっ?そ、そうですかっ?気のせいですよ…うん」
「そうかい?」
マスターは赤くなって否定する綾を優しい眼差しで見ている。
そう、綾はまたあのお客に会えないかと思い、こうして自分の出番の日は早く出勤しているのだ。
どこの誰かは分からないけど、こうして毎日早く出勤すればいつかまた会えるんじゃないか、
もし会えたなら、今度は頑張って話しかけることができるかもしれない、
綾はそんなことを毎朝考えているのだ。
「はい、綾ちゃん。今朝の紅茶はセイロンにしたけど…どうかな?」
綾の前に紅茶が差し出される。
ふわっとやわらかい香りがしてきた。
「いただきま〜す!」
カウンターに腰掛け、一口含む。
「…おいしい…!」
自然と言葉が出てきた。
「うん、良かった…」
マスターはにこっと笑うとカウンターの中から出て、店の入り口の看板を『OPEN』に直した。
綾の思いも虚しく、今日はとうとう休憩タイムに突入してしまった。
(この時間だと今日はもう来ないかなぁ…)
後ろ髪引かれる気持ちで、「すみません、休憩行ってきます!」
と、店内を後にした。

―30分後。

…カラン…コロン―

「いらっしゃいませ!」
マスターと咲が客を出迎える。咲はあれ以来、気合いを入れているつもりだ。

客は常連の若い男性。
年は自分とあまり変わらない、と咲は踏んでいる。
「あぁ、久しぶりだね。」
マスターが声をかける。
「こないだはどうも」
そう言うと、いつもの席に向かっていく。

(こないだ…?あっ、そういうこと!)
今の会話で合点がいく。
「ホント久しぶりですね、こないだって何かあったんですか?」
咲はお冷やをテーブルに置きながら、さりげなく彼に伺いを立てる。
「いや、別に大したことじゃ…。そういえば、今日はもうひとりの女の子は?」
(やっぱり!!)
「今、休憩中よ。でも、もうすぐ戻ると思います!」
(綾ちゃんって…いつも間が悪かったんだ。)
そう思う反面、その方が印象づくか、と少しばかり期待をしていた。

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