PiPi's World 投稿小説

遠距離恋愛
恋愛リレー小説 - その他

の最初へ
 10
 12
の最後へ

遠距離恋愛 12


―カチャ…
マスターは無言でカモミールティーを出す。
「…いただきます。」
両手でカップを持ち、一口飲んだところで、咲は重い口を開いた。
「…私、こう見えても小心者なんです。しっかり者でもなんでもない……」
マスターは口を挟むことなく、ただ黙って咲の言葉に耳を傾けている。

「こっちに出てきた一番の理由は…別れた彼の後を追ってきたからなんです。少ない情報だけが頼りで、結局会えなかったけど。」
「うん。」
マスターが合間に頷く。
「こっちで何人かと付き合ったりしたけど、やっぱり無理だった。だって本来の自分でいられない、もう疲れちゃったんです。」
咲はマシンガンを放つ如く話を続ける。
「限界だったんでしょうね。気づいたら、繋がらないって思ってた彼の携帯に電話してた。でも、予想に反して繋がっちゃった。甘えようとしてることに気づいて、切っちゃったけど。」



「あっ!メモ忘れてきちゃった…戻るか〜」
綾は一旦外へ出て歩きだしたものの、うっかりメモを置いてきてしまった。走って戻り、店のウインドーを横目で見やると、咲がカウンターに座って何かを話している。

(…あ、咲さん…)
綾は咲の横顔をずっと眺めていたが、次の瞬間ハッとしてしまった。

―右頬を涙が伝ったのだ。


綾は、今まで見たこともない咲の涙の意味を深く考えてしまい、その場から動けずにいた。

「すいません。なんか止まらなくって。」
咲は右手で涙を拭いながら、少し頭を下げる。
「…あー、しかも泣いてるし。ダメだな〜。」
「言いたいことは口にした方がいいよ?咲ちゃんは変に気張りすぎだよ。」
今まで沈黙を続けていたマスターがやんわりと言葉をかける。

「ちゃんと私を見て、そう言ってくれるのは、マスターと彼ぐらいかな。」
ふふ、と少し微笑む。
「いろんなお客さんを見てるからね。自然と目が養われてるんだよ。でも、彼は咲ちゃん自身を見てくれてるんだと思うよ。」
「じゃあ…少し素直になってみようかな?」
口角を上げ、いつもの笑顔に戻っていく。
と、そこでマスターは、あることに気づいた。
「素直なら大先輩がいるじゃないか、ハハッ」
「え?どこに?」
咲は意味がわからず、ポカンとしている。
「店の前に、さ。」
そこには、買い出しに行ったはずの綾が立ち尽くしていた―。

SNSでこの小説を紹介

その他の他のリレー小説

こちらから小説を探す