はみんぐデイズ 64
爆音が鳴り響く。
それは、『何かが爆発した音』では決して無く、『爆発のような凄まじい音』と言う意味だ。その衝撃波によって、そこらじゅうの壁という壁が抉られ、鉄筋が露出している。
八坂シノは、正直後悔していた。
自分の強さを過信し過ぎていたようだ。いくら魔法都市フィレルのトップクラスといえ、上には上がいるということを派手に思い知らされる結果となってしまった。
「えー……っと、何やねんこの強さは。お姉さん頑張らんと死んでしまうかもしれへんな」
ふふっと、唇の両端がひきつる。
それとほぼ同時に、心臓がはちきれんばかりに鼓動を開始する。
やっぱり団体行動は基本中の基本か………と、シノは1時間前の選択を後悔する。
郊外で戦った兵隊どもの列の本にあるひとつの廃墟。それがやつらの本拠地だと踏んだ。
入り口からいきなり道が四本別れていたので、仕方が無く4人別れたのだった。
―――まさかこんなことになるとは…
と、目の前の現実に思考を戻す。
厚い水色のトレンチコートを羽織り、その中身はいっさい見えない。腰まであろうかというロングヘアーはポニーテールに束ねられ、スカイブルーの瞳を強調するかのように白縁のメガネを掛けている。
彼女は「破響のレクシル」と名乗った。
「……今なら、逃げ出して策を整えるのも得策。私は追わない」
何一つ傷のないレクシルは、満身創痍のシノに問い掛ける。その右手に持つステッキで、壁をコツンと叩くと、鼓膜が破けるかというような音が駆け抜ける。
「……あなたはどうせ私に勝てない。死ぬか逃げるかの選択肢。答えはわかっているはず」
余裕を見せつけるレクシルに、シノは再び笑い、血反吐を吐いた。
「選択肢? 当たり前や、一つしかないわ」
震える足を無理矢理立たせ、レクシルと距離を取る。
レクシルは深い溜め息を吐き出し、シノを凍てついた目で見据えた。
「……残念。あなたは物分かりがいいと思いましたが」
「まあ、見下されてはいそれではって帰るような、安っぽいプライドは持ち合わせておらん」
シノの周りにいる鳥たちが、禍々しい異形の怪物へと進化していく。耳をつんざくような鳴き声を上げて、2メートルを超える羽をバサバサと動かす。
「殺れ。骨のみになるまで食い尽くしてええ」
激昂したシノの目が、赤く染まっていく。その唇から紡ぐ血生臭い言葉に反応し、怪物たちはレクシルへ滑降を開始した。
「……甘い。その程度で私に勝とうとは、どんな教育を受けてきたのか」
ステッキを一振り。
ゴウ! という音とともに、衝撃波が襲いかかる。
怪物たちは音速の波に吹き飛ばされ、鉄筋に打ち付けられた。