はみんぐデイズ 65
「攻撃するのは鳥たちだけじゃあらへん」
刹那、死角からシノが襲いかかる。手には紙で作られた鋭利な刃が握られていた。
「……式神か」
「よくご存知で」
式神が宿る紙は形を変え、ステッキを包み込むように広がる。レクシルはステッキで紙を叩くと、スパンと言う音とともに紙が裂かれる。
レクシルがステッキをもう一回振り、それがシノの腹部に命中して、シノは部屋の隅まで吹き飛ばされた。
「くっ」
「……非常に迷惑。さっさと終わらせる」
「まだまだや!!」
足を庇いながらも、シノは再び駆けた。必死に攻撃をするも紙一重でかわされ、変わりに手痛い一撃をまた浴びせられた。
レクシルはシノとの距離が離れたことを確認すると、そこらに転がっていた金属に音を叩きつけ、銅鐸のようなものを造り出した。
「……これはメガホン。あなたと言えど、直撃したら絶命は免れない」
標準は、そこに横たわった八坂シノだ。狙いを定め、ステッキを振りかぶる。
その時。
血みどろのシノの唇が、
笑みを浮かべた。
「ウチの二つ名、知ってるか?」
笑いがこらえられない、といった口調で、八坂シノは話し続ける。
背筋が凍るような口調に驚きながらも、レクシルは再びメガホンの標準を合わせた。
「閃空の不死鳥って、言うんや」
刹那、暗い廃墟が光に溢れた。世を覆う閃光は、神話に登場する伝説の鳥へと姿を変貌させる。
「…………なんだ。これは」
予想外の事態に狼狽えるレクシルに、シノがほくそ笑む。
「この術式を使うにはな、敵を囲むように起爆剤を設置せなあかん。手間取ったわー」
「だが、私の周りにそんなものなど……」
「ばーか。この部屋は四角い部屋や。そしてウチはわざわざお前に何回も吹っ飛ばされた。【式神を手にしたまま】や」
「………まさか、そんな、自爆まがいな行為など!」
「ああ、部屋囲ったらウチも攻撃範囲内や、そんなんどうでもええ、倒せれば。それで」
空気が凍る。
ふ、ふふふ、とシノとレクシルの笑い声が響く。
そして一瞬、静寂が覆った。
「閃光の不死鳥。標的は破響のレクシル。生死は問わない。完膚無きまでに叩きのめせ」
「………最大術式、noise9999、発動まで残り2秒」
刹那。想像しえない轟音と、光輝く不死鳥がぶつかり合った。
両者のエネルギーは処理限界を超え、あぶれた力は天へと突き抜ける。
その光の柱は太陽よりも強く輝き、一瞬で世界の半分を覆い尽くした。
光が収束したその時、戦場には二人の女が大の字で横たわっていた。
「……引き分けってことで……ええか…」
「……あなたは本当に変な人だ。最大術式を自分ごととは」
「……それしか、勝てる方法無かったんや…」
「……久しぶりに疲れた」
「……ウチもや」