はみんぐデイズ 53
同刻
「うわっ、雑魚っぽいのが仰山おるなあ〜」
フィレル郊外の崖の上に4人の男女が立っていた。
彼等が見下ろす崖の下には数千の軍勢が控えている。
「思ったよりも多いですわね。どうするんですの、ユウ?」
ユウと呼ばれた青年は風で乱れる前髪を抑えながら答える。
「そのことなんだけどね、エリカ。最初の予定を変更してアレを使おうと思うんだ♪やってくれるかい、シノ、シュウジ?」
「ああ、俺は構わない」
「ウチも全然オッケーや」
「じゃあ早速頼むよ♪」
シノとシュウジはうなずくと全身に膨大な魔力を通わせる。
「白光煌めく静雪の獅子」
「灼熱轟く鮮血の翼」
「契約者八坂シノが命じる!」
「契約者相模シュウジが命じる!」
「出てきてや、白虎!!」
「出でよ、朱雀!!」
凄まじい魔力の放出と共に光の中から二体の人外が現われる。
一体は白雪のような毛皮に威風堂々とした風格を漂わせる、四聖獣の一角たる白虎である。
もう一体は灼熱の翼から煌めく火花をほとばせる、同じく四聖獣の一角たる朱雀…ではなく、流行のファッションに身を包んだ17、8歳くらいの美しい少女だった。
「シュウちゃん、おひさ〜!最近同伴も指名もしてくれないどころか、お店にも来てくれないからすぅちゃんのこと忘れたんじゃないかと思っちゃった☆」
シュウジがそういう店の常連であるという誤解を招く発言を飄々としてのける朱雀、もといすぅちゃん。
「す、朱雀、お前またそんな姿で…」
「す・ぅ・ち・ゃ・ん、って呼んでっていつも言ってるでしょ!だって『朱雀』ってなんか男っぽくてゴツくてダサいんだもん!」
「だから朱雀…」
「もう〜言ってるそばから!でも…そんなシュウちゃんの頑固なところもスキ」
「……………」
「さてシュウジと『すぅちゃん』の夫婦漫才は置いておいて、そろそろ本題に入ろっか♪」
ユウは放っておいたらいつまでも続きそうな二人(?)の掛け合いに口を挟む。
「め、夫婦って…!?いきなり何を言い出すんだ!!」
「もう〜ユウちゃんったら〜まだ早いよ〜」
それに対して二者二様の反応を示すシュウジと朱雀。
その反応を無視してユウは続ける。
その瞬間空気が鋭く冷たいものに変わったのをそこにいた誰もが感じる。
「白虎と朱雀には下にいる軍勢を殲滅してもらいたい。最初はオレたちだけでやるつもりだったけど、数が多すぎる。あれだけ多いと殲滅に時間がかかって援軍を呼ばれてしまうかもしれない」
やってくれるか、と白虎と朱雀ではなく、シノとシュウジに確認を取る。
白虎と朱雀に命令できるのはあくまでも契約者のシノとシュウジだけだからだ。
「白虎、やってくれる?」
「イエス、マスター」
「朱雀、やってくれるか?」
「いいよ〜そ・の・代・わ・り…終わったらすぅちゃんとデートしてくれる?」
「………わ、分かった…善処しよう…」