はみんぐデイズ 38
「んな訳あらへんやろ…あの本の山の向こうにおるんや」
突然消えたラムネにビビっているハリに向けて、シノは呆れたように言う。
確かにその言葉の通り、山の向こうに椅子に座って本を読んでいる少女がいた。
「あれが『本物』のラムネちゃん…かわいい〜♪ってあたしはそんなキャラじゃない!はず…」
「皆月のキャラなんかどうでもええんやけど、やっぱり『本物』のラムネはええなあ」
見るとシノはすでにラムネに抱きついて頬擦りをしている。
「………やめて」
ラムネは酷く迷惑そうだ。
「それにしてもすごい本の数だな」
ざっと見ただけでも百冊近い本が積まれている。
「どや?すごいやろ」
「何で先輩が自慢してんですか!」
「だってウチのラムネやもん♪」
「………シノちゃんのものじゃない」
ラムネはやんわりと抗議したが、シノはそれを無視して続ける。
「ラムネは超読書家なんや。ラムネ、好きな本を教えてやり」
「………トーマス=マンの『魔の山』」
ちょっと不満ながらも律儀に答えるラムネ。
「誰?」
「知らんのか?あの青い機関車の」
「えっ、それは違うような…」
「分からんか?他にはゴー〇ンとかパー〇ーとか」
「あわわわわ、そ、それ以上言ったらダメです!いろいろと問題になりますから!」
「ダメなんか?」
「ダメです!そ、そういえばさっき先輩がどんな小説を読むのか訊いてなかったなあ〜」
「あれ、言わへんかったか?」
「言うてない、言うてない」
ハリは関西弁をうつされながらも話をそらすことに成功したようだ。
しかし…
「ウチが好きなのは男と女が絡んだり、男と男が絡んだりするヤツや♪」
「それは別の意味で問題です!!!」
「………『絡む』って何?」
「ラムネちゃんは知らなくていいの!」
「ラムネ、それはやなあ…」
「先輩も無垢な子供に変なこと教えんなー!!」
図書館はなにやら楽しそうであるが、その頃保健室では…
「………」
ヒナは少し前に目が覚めた。
そして今現在は隣のベッドで寝ている(傷が深すぎて死んでるようにも見える)ミツルを見つけて唖然としていた。
クリス先生がいる気配も無い。
(もしかして、二人きりってこと〜?)
「こんなΣ野郎と二人きりって…」
しかしヒナはそこで言葉を切る。
そして忘れたい記憶たちを思い出した。
「そうだ、私Σに負けちゃったんだっけ…」
とたんに目尻が熱くなってくる。
「…試験も、落ちちゃったんだっけ…」