はみんぐデイズ 37
「あん時はラムネが入ってくる前やからウチが会計をやっとったんや。そんなことよりも結局建て直しの5倍の費用がかかったんや…ぐす」
「そ、それは大変でしたね…」
ハリまでシノからもらい泣きしそうな勢いだ。
「そう、大変やったんや…ぐす…っていうのはもうどうでもいいんや!ラムネ、さっさとラムネの所に案内しい!」
「………うん」
「どうでもいいの!?てかラムネちゃんもさっきの話スルー!?」
「………何回も聞かされたし、どうせさっきのは嘘泣き」
「嘘泣きっすか!?」
もらい泣き寸前で、目にうっすらと涙を浮かべていたハリにとっては許しがたい裏切りである。
思わず「ブルータス、お前もか!」と叫びたくなる程の。
……ちょっと違うか?
とりあえず向けるべき方向を失った同情のベクトルはハリ自身に返って、ハリが本泣きへの階段を三段飛ばしで駆け上がるのをアシストした。
「うわ〜ん、あたしを…ひぐっ…騙すなん…て酷い…ひぐっ…ですよ〜うぅぅ…ぐすっ」
「何でそこであんたが泣くんや〜」
「だって…ひぐっ…だってぇ…」
「………泣かないで、ハリちゃん」
「しょうがあらへんやんか〜ウチの涙はあん時に枯れ果て、乙女の心に残ったんはあのジジィへの淡い復讐心だけなんやから〜」
乙女の心にあってしかるべきは淡い恋心だ!
とか
そもそもお前は乙女か?
などというツッコミは全くもって無粋であろう。
っていうか、そんなツッコミをした日には命がいくつあっても足りない。(特に後者)
「朝月みたいに泣かんで、早く泣きやみい。な?な?そうや!あんたもラムネをギュッってしたらええんや!そしたら和むで〜」
「ラムネちゃんをギュッ…いいかも…」
「………え、ハリちゃん?」
「っちゅう訳でさっさと案内せぇ、ラムネ(霧)♪」
それからしばらくハリ達はラムネの後に従って階段を上ったり下りたり、通路を右に曲がったり左に曲がったり…
「なんだか迷いそうですね」
いつの間にか泣きやんだハリが言う。
「そやな。てかラムネがおらんかったら迷っとるで」
辺りを見渡しているシノの目に入ってくるのはさっきと同じ通路の様子。
いや、むしろ最初から全く変わらないと言うべきか。
「………着いた」
ラムネが立ち止まった先にはひとつの扉。
扉には金色の文字で「第5297閲覧室」とある。
扉を開けると、あの本独特の香りがふわっと鼻孔をくすぐる。
そして閲覧室の中に目を向けると、そこには本、本、本。
教室の三倍程の大きさがある閲覧室の四方の壁に床から天井までびっしりと本が詰まっている。
また、部屋の中央部には本を読むための長机が並び、その一画に本が山積みになっている区画があった。
「………あそこ」
ラムネが指差した所はまさにその山積みの区画。
「あれがラムネちゃん?まさかラムネちゃんの正体って本だったの!?ってうわぁ!」
横にいた筈のラムネの姿が消え、床に水溜まりができている。