はみんぐデイズ 36
「皆月、置いて行くで〜」
シノとラムネはハリを置き去りにして建物の中に入っていく。
「あ、待って下さいよ〜!」
ハリは走って二人を追いかけ、図書館の中に入った。
建物の中には確かに高そうな絵画や彫刻が飾ってあるが、ラムネの言った「すごい」とは違う気がする。
何だか違和感を感じるのだ。
「…外から見た時よりも広い気がする…」
「お、皆月でも分かったか」
「『でも』ってどういう意味ですか!?『でも』って!?」
「そのまんまの意味や。それでどういうことか分かるか?」
「分かる訳ないじゃないですか!」
今にも噛みついてきそうなハリにシノは苦笑を向ける。
「まあまあ、落ち着きや。ラムネ、教えてやって」
「………ディストーション」
「でぃすとーしょん?」
聞き馴れない単語を耳にして頭上に無数の疑問符を浮かべるハリ。
「そうや。ディストーションっちゅうのは空間操作系の高位呪文で、空間を歪める力があるんや。そしてその呪文で図書館の中を広くしとるっちゅう訳や」
「でも何でそんなことを?」
「………蔵書が多すぎるから」
「ここの図書館には国宝級の古代魔導書から最近の娯楽小説まで、噂によれば数千万の蔵書があるんや」
「数千万!?一、十、百、千、万、十万、百万、千万の千万ですか!?」
ハリは指折り数えて叫ぶ。
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万の千万や。そんだけあったらこのお城が幾らでかいとはいえ、さすがに入りきれんのや」
「それでディストーションを使った、っていう訳ですね?」
「まあ…そういうことなんやけど…ここがうちの理事長のアホなところなんや!」
「………大きな建物に建て直した方が安上がり」
「そうなんや〜、聞いてーな〜このお城に半永久的にディストーションをかけるのにどんくらいかかったか…」
「はあ……」
シノのものすごい剣幕に断ることなど到底できる筈もないハリであった。
「まずディストーションが使えるSS級の魔法使いと契約せんといけんかった。でも契約金が高い!しかも一人やないんや!12人やで、12人!こんなでかい建物に半永久的にディストーションをかけるにはかなり大規模な儀式をやらないけんからなんやけど…他には儀式に使う巨大な魔法陣を書かせるのにもかなりかかったし、儀式は一週間休まずに続けられたからその分払う報酬も高くなって…そろばんをはじくウチがどんなに泣かされたことか…ぐす…」
「あれ?会計ってラムネちゃんじゃありませんでしたっけ?」