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君がいなかったら
恋愛リレー小説 - 理想の恋愛

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君がいなかったら 1

ただただいつものように、日常は進んでいく。
でも、その日常に何の変化もないわけは、勿論ない。そう、あの日俺があの場所にいかなきゃ君には出会わなかったろ?
――
「えぇ?違う店に?」
俺は素っ頓狂な声で騒いでしまい思わず恥ずかしくなる。
「あぁ、つい先日本店で大きなボイコットがあって…調理場の人が足らんらしいねん…」
と店長に言われた事にであるが……
俺、柳井湫は大学進学と共に一人暮しをしている。
そして大学入学と同時に始めたのが居酒屋のバイト。「でも…本店て隣の県にあるんすよね?」
「もちろん、夏休みの間だけでいいんだ。柳井ちゃ〜ん助けてくれよ〜」
困った時だけ"ちゃん"付けする、その店長の口癖は知っていた。

「でも、住むトコどうすればいいんすかぁ?」俺は不服混じりに訴えた。
「その点は安心していいよ。衣食住すべてうちの方で準備するよ。それに・・」
「それに?」
「給与以外にも"特別手当"て出すからさぁ〜。悪い話しじゃないだろ?」
仕送りも乏しい俺の生活を知っている店長の、厭らしい口車に乗せられる気もしたが、
ここで辞める訳にはいかない俺は、首を縦に振るしかなかった。

週を跨がずとして、俺は隣の県に向かう列車に載っていた。
車窓から眺める景色は時間とともに広大な自然へと変化していた。
俺の心はどこか旅気分で、渋々店長にOKしたことが申し訳なく思えるほどに、浮かれ気分になっていた。

夏休みの予定が何かあった訳ではなかった。
実家に帰るつもりではいたが、湫が帰ったら帰ったで、それを待ち構えていたがごとく世話を焼く母親。
それへの対応が億劫でもあり、一人暮らしに馴れ親しでしまった今の生活には、
ありがたくはあれど苦痛になるのは分かりきっていた。
それでも、旧友たちとの再会を逃すのは惜しい気もした。
進む道はそれぞれ変わり、考え方も異なってはきてはいたが、
湫にとって友達と言われ、先ず浮かぶのは、
大学の友達でも、バイト先のダチたちでもなく、この旧友たちだった。

"夏休み後半には皆に会えるかな?"などと悠長に考え、
俺は今日2本目の発砲酒缶のプルトップを"プシュ!"と、勢いよく奏でた。

アルコールが気持ちいい具合に身体に染み渡り、
湫の意識は次第に睡魔に誘われていく。
考えてみると、明け方近くに仕事を終え、その後に、店長初めバイトの面々が壮行会を開いてくれたのだ。
たった1ヶ月ちょい離れるだけと恐縮もしたが、要するに湫を魚に、飲み会を開きたかっただけなのだ。
それでも野郎ばかりのバイト仲間は気兼ねなく、湫はこの連中と飲むのが好きだった。

そもそも湫は、人見知りが激しく、なかなか他人と打ち解けることができなかった。
居酒屋でも接客ではなく、調理場に入れてもらっていたのは、このためだった。
しかしながら、一度でも打ち解けることができると、それが無二の親友であったかのように思えてくる、そんな一面も持っていた。
店長始め、バイト仲間たちも、今の湫にとっては大切な存在だった。

そんな人見知りの湫にとって、気掛かりなことを、飲みの席で店長から言われた。
酔いの回った店長は、湫の肩に腕を乗せながら酒臭い息を漂わせていた。
「柳井ちゃ〜ん。あっちは人がいねぇ〜から、調理場だけじゃダメかもしんねぇ〜ぞぉ。
まあ、これも勉強だと思って、カノジョの1人でも作ってくんだぁな〜・・・・」

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