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恋愛リレー小説 - 理想の恋愛

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何かを諭したかのようにそう言うと、祐之先輩は月を仰いだ。
月光に向かい手を伸ばし、大きく伸びをした。
そんな祐之先輩の背の向こうから、ぼんやりとした赤い光が近づて来てくる。
和美はギクリとして、祐介先輩の腕を掴もうと手を伸ばしたが、さすがにそれは躊躇われた。

光の正体は佐藤洋平の煙草の先だった。

「あれ?邪魔しちゃったかな?」佐藤洋平はおどけた口調で言った。
「そんなんじゃねーよ」
祐之先輩は笑いながら、佐藤洋平の頭を悪戯坊主にするように、くしゃくしゃとかき混ぜた。

「丁度いい、和美ちゃんをゴールまで連れていってくれよ」
「祐之先輩は?」和美は"アレ?"という思いで口にした。

「俺はもうちょい、月を見ていく…」

そう言いながら、佐藤洋平の口からくわえ煙草を抜き取ると、それを深く吸い込んだ。

初めてみる祐介先輩の喫煙姿は、佐藤洋平とは比べものにならないぐらいに、かっこよく見えた。

月明かりが斑な模様を描く小道の中で、和美は前に行く佐藤洋平の小さな尻を見ながら、続き歩いた。
不思議と怖さは無かった。微かに触れる風の臭いが気持ちよくすらあった。

「自分本意なセックスしか出来ない男ってか?・・」
突然、佐藤洋平が呟いた。

「え?・・・イヤだ!聞いていたの!?」
「盗み聞きしていた訳じゃねーよ。吉野が引っ張られて行くのが見えたからよ。」
「助けてくれなかったじゃない・・」
「あっと言う間だっからな。それに・・」
「それに?」
「俺が出て行くって感じでもなかったし・・」

「そ・それもそうね・・」

和美は祐之先輩が言った"童貞"という言葉が蘇っていた。
それは祐之先輩としてみたら、同性で年下の佐藤洋平には知られたくないことであろうと思え
あの場に出てこなかった佐藤洋平の選択は正しいと思えた。

「あの時、私が言ったのは一般論に過ぎないは。
女は男が思っているほど、経験数なんかにこだわらないってこと。
それに私、偉そうなことが言える程、そんなに経験ないは。」
確かにそれは女性週刊誌で読みかじった、たわいも無いコラムに過ぎなかったと思う。
童貞喪失にこだわる、祐之先輩の男ならではの発言を聞いて、ふっと思い出したに過ぎなかった。
それでも女の和美から見れば、そのコラムは最もだと思い、
男が女に対してリードしたいと望む程、女は男に対してそれを求めていない気がした。

「確かに、吉野和美がそっちに長けているとは思えないけどな・・」
佐藤洋平は前髪を額に持ち上げながら、ニヤっと笑った。
手を離すと同時に、その前髪はサラサラと音を立てるかのごとく、流れて落ちた。

「それはどうも・・なんだか馬鹿にされてる気も、しないでもないけど・・」
和美は不服混じりに言葉を返したが、内心は佐藤洋平との会話を楽しんではいた。

「馬鹿になんてしてないさ。
経験数なんて人それぞれだろ?・・
だからそれでいいとか悪いとか、そんな価値基準は、俺は持ち合わせてはいないんだ」
そう言い切る佐藤洋平の口調は、しっかりと力強かった。

佐藤洋平が、皆からイケメンと言われる所以が、和美はなんとなく分かる気がした。

「たまには、いいこと言うんだね。」
「"たまに"ってことは無いんじゃないか?」
「私、佐藤君ってもっとチャライ男だとばかり思ってた・・」
「そう?」

勢なりだった・・
佐藤洋平の顔がさっと近づき、煙草臭い息が感じられた。
和美が、"え?"と思った次ぎの瞬間には、唇が重ねられていた。

"ちゅっ!"と音のしそうな軽いキスが、憂いを帯びた接吻に変わるのに、時間は掛からなかった。

それは今しがた、祐之先輩から強引に受けたそれとは、比べものにならない程、甘く、酔いそうな口付けだった。

それでも佐藤洋平の舌の浸入を感じると、和美は両手で押すようにして身体を離した。

「やっぱり、馴れてるのね・・」
和美は命一杯平静を装い、声を発した。

「俺は・・チャラいさ・・」

ドキドキした心臓を抑える和美の横で、佐藤洋平の返した言葉は、なぜか沈んで聞こえた。
それを意外に感じながらも、このキスは自分を装う為の手段に過ぎなかったのだろうと思えた。 

佐藤洋平は上辺ではチャラい軽い男を演じてはいるが、実のところは用心深く、絶えず他人の目を気にした、気弱な男なのかもしれないと和美は思った。
こうやって、臆することなく誰とでも唇を合わせるのだから、
時にはその相手と肉体関係を結ぶこともあるのだろうということは、誰に聞かずとして容易想像はつく・・。
男は女ほどセックスにおいて失うものは少なく、返って数をこなしていることが、
男としての自信にも繋がることをananのSEX特集を読んで和美は知っていた。
それでもそれを、謳歌しているようにはとても思えない沈んだ佐藤洋平の声を聞くと、
男とて皆が皆、無心に性欲に突き動かされている訳では無く、
時には無垢な少女のように思い悩みながらも、女には想像もつかない、
毎日大量に作られる精液を持て余しているのかもしれないと・・目の前の彼を通して、男の苦労が分かる気がした。

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