tomoka 10
どこか諦めた彼の視線に。
「香、大丈夫?」
戻って来たあたしの様子がおかしいのに気付いた朋子がそう聞いてくれて。
「ゴメン、ちょっと今日は具合悪いかも…」
「大丈夫?」
と直樹まで心配してくれて。
二人の優しさに甘えて、今日は帰ることにした。
体調も悪かったのもあるけど、何よりさっきの男のことをじっくり考えたかった。
あの時の視線がどうしても気になって仕方なかった。
次の日は朝早くからバイトが入っていて。
昨日ゆっくり休んだお陰か、今日はすっかり元気だった。
結局昨日感じた感情が何なのかは分からないままだったけれど、そんなことを考える暇もないくらい店が混んで来て。
どうやら最近話題の映画が公開されたらしく、それを観に来た人が観る前や観た後に来ているみたいだった。
朋子と一緒のシフトだったんだけど、忙しすぎてお互い話す余裕もなかった。
少し客足が遠退いたと思ったら、隣のレジから、
「アキラくん?」
と言う朋子の声が聞こえきた。
アキラって、あの?
と好奇心にかられて朋子のレジ前に立っている男をチラリと眺める。
─あれ?
微かな既視感を覚えて、もう一度、今度はじっくりとその男を観察する。
やっぱり、見たことある。
どこでだっけ…
「じゃ、このセットで。」
お客さんの声に反応して、慌てて注文を繰り返すとセット名をコールして、ドリンクを用意する。
アキラはコーラを注文したみたいで、朋子がLのカップにドリンクを落としていた。
ポテトを用意しながら、朋子にどうなの?と目で尋ねると、嬉しそうな笑顔を返された。
フードが上がった事を声をかけられて、トレイにセットを並べてお客さんに手渡す。
ありがとうございました。とマニュアル通りに接客し終えると、朋子も今渡し終えたところだった。
時計を見るともう上がる時間だったのだが、この混みかただと、早番の朋子とあたしのどちらかが残らなくてはいけないだろう。
社員に自分が残る旨を伝えて、朋子に早く上がることを促す。
朋子は申しわけなさそうな顔をしてあたしを見たが、昨日のお詫びとあたしが言うと決心がついたのか、ありがとうと言って、着替えをしに裏に引っ込んで行った。
店内を見渡すと、アキラが一人で黙々とポテトを食べていて、こういう人混みになれていない感じを受けた。
アキラが帰る前に朋子が間に合うといいけど…と思っていると、アキラが食べ終ったのか立ち上がってしまった。
なんとか引き留める口実を考えていたら、タイミング良く朋子が現れたので、少しホッとした。
お先に失礼します。