tomoka 47
ここのところ一週間は降りっぱなしだったんですから。と嘆く運転手の声を聞きながら、あたしは軽い眠りについていった。
「か〜おりっ」
「、朋子?」
「なによぅ、そんな変な顔しちゃって。」
「え…だってその服…」
「…似合わない、かな。」
「いや、そんなことないよ!すごい似合ってるんだけど…」
「本当?よかった〜。一生に一度のことなのに外しちゃったかと思って焦ったよ。」
真っ白いドレスを身に纏ってふわっと微笑む朋子。収まりきらない幸せな想いがこちらまで伝わってくる。
「ね、かおり。」
「ん?」
「あたし、…幸せだよ。」
「…ごちそうさまです。」
あたしも朋子が幸せそうでうれしいよ?やっぱりともは笑顔が一番だね。本当、おめでとう。
「…トモ、」
「もうそろそろ見えてきますよ。」
見知らぬ男の声にまぶたを開くと、あたりは夕闇に身を染めようとしていた。一瞬自分がどこにいるのかを忘れそうになる。夢と現実の区別がつかなくて、しばらくぼぉっと窓の外を眺めていた。
先ほどまで、白一色だった世界に夕焼けが色をつけていって。鮮やかなその色彩にしばらくの間目を奪われた。
「あぁ、あれですよお客さん。」
軽く親指で方向を示す先を見つめると、想像以上にこじんまりとした民宿のような建物が目に入ってきた。
「…本当に、あれなんですか?」
この道何十年のベテラン運転手を疑うわけではないけれど、インターネットで調べたお客さんの感想とまるでかけ離れた外観に不安になって、思わずそうたずねてしまった。
運転手の機嫌を損ねてしまったかと、言ってから後悔したが、彼はそういった質問をされるのに慣れているのか、いたって気にしていない様子だった。
「まぁ、中に入ってみれば分かりますよ。」
ここまでの料金を受け取った後で、運転手は私の顔を見てそう言うとニコリと笑った。
タクシーが夕闇から暗闇に変わろうとしている境目に消えていくのを見届けると、あたしはもう一度この建物に目を向ける。
「…たしかペンションって書いてあった気がするんだけど。」
運転手の言葉を疑うわけではないが、証拠のようなものがほしくて看板なんかが出ていないか探してみる。しかしどうやら雪に埋もれてしまっているようで、目に付くものは何もなかった。
日が落ち始めると急に冷え込んでくる外気温に耐えられなくなって、入り口の前まで歩みを進める。
扉の前でしばらくの間どうしたものかと悩んでいたら、その扉のほうが業を煮やしたようで、私を中へと招き入れてくれるかのように開いた。