tomoka 46
「…そうなんですよぉ。それで友達が今バイトしてて、すごい楽しそうだからあたしもやりたいなって思ってるんですけどぉ。」
まったく関係ない話で盛り上がるありさのことがサッパリ分からなくて。仕方なく他に手がかりはないものか部屋を見渡してみる。小さい本棚には教科書なんかがきっちり整頓されていた。台所を見て薄々気づいてはいたけど、きっと明はA型だろう。今度会ったら聞いてみようかな…
そんなことをぼんやりと考えながら、部屋をぐるりと見渡していた。−と、何か目に引っかかるものがあって。
それが何なのか、もう一度よくよく部屋の中を見返すと、本棚の中に教科書と埋もれて一冊の小説が顔を覗かせていた。
何かに手を引かれるようにそれに手をかけると取り出してみる。
「はい、…あ男の人なんですけどぉ、高橋明って言って。」
アキラ?その単語に反応してありさに視線を移すと、先ほどから打って変わって真剣な表情のありさがいた。
「あ、分かりますか?」
そう言うとありさはチラリとあたしに視線を送った。
「…あ、そうなんですかぁ。もぉ明もひどいんですよ〜。行ったっきり詳しい場所も教えてくれなくて。……そうなんですよ〜。だから今度いきなり押しかけて驚かせてやろうと思ってたんですけど、…そうなんです。場所が分かんなくて。……えっ分かるんですかぁ?助かりますぅ。」
カバンから手帳を取り出すありさの手が震える。ペンをぎゅっと握り締めると今まで以上に愛想よく電話口に語りかける。
「はい、大丈夫です。お願いしま〜す」
さらさらと書き綴ると、ありさは最大級の微笑みを浮かべて電話を切った。
「長野だって。」
「え?」
「明、長野にいるんだって。」
「ナガノって、…昔オリンピックなんか開催してたところ?」
「たぶん。そうだと思う。」
住所と一緒に電話番号も聞き出せたんなら、電話の一本もかけてみればいいのに。ありさは明がどこにいるのかが分かっただけで安心したみたいで、それ以上深入りするのを避けているようだった。
本当、人の恋路はよく分からない。あたしだって朋子が絡んでいなかったら明の事なんか放っておくんだけど。
でも。でもあの子が泣いてるから。朋子には笑顔でいてほしいから。
だからあたしはここまで来た。
相変わらず白一色の景色を、やっと見つけたタクシーの中からぼんやりと眺める。
おんなじ景色だと、前に進んでいるのかどうかも怪しくなってくる。幸運なことにこの日の午後から雪が止んでくれていて。