tomoka 48
明が出てくるのかと身構えていたあたしは、扉から顔をだした人物のことを凝視してしまった。
「…あ、お客様ですよね?」
一瞬自分に問いかけられていることが分からず、固まってしまう。
「どうぞ、寒いでしょう?」
中へ入っても良いのだということに気づくまで、ずいぶんと時間がかかった。言われてから、自分の体が寒さに悲鳴を上げていることを思い出し、雪面に放置してあった荷物を持ち上げると、扉の内側へと足を踏み入れる。
「温かいものを入れますから、それまでそちらで温まっていてください。」
男はそう言って厨房らしいところへ小走りで向かってしまう。
あたしはしばらく事の成り行きについていけず、ボーっと入り口に突っ立っていた。
今の人も従業員なんだろうか。ずいぶんと手際が良かったからここのオーナーなのかもしれない。
そういえば、さっき暖まってろ。とか言ってたっけ?
部屋の温度に溶かされて、ビチョビチョになってしまったブーツをマットのような物で一応拭いてから、靴箱へしまう。
玄関ホールに用意されていた、フカフカのスリッパに足を通すと、先ほど男が指差していたほうへ進んでみる。
―と、目の前に外観からは創造し得なかったほど、豪華…とまではいかないが、センスの良い家具が配置されており、赤々と燃える暖炉が私を迎え入れてくれた。
スキー客が引き上げてくるのにはまだ早いようで、客は見渡す限り、まだあたし一人しかいないようだった。
―でも、客間は上なのかな?
ざっと見た限り、1Fには食堂、厨房、あとおそらくお風呂があるようだった。
玄関を入ってすぐのところにあった大きな吹き抜けの階段を思い出す。
気づくとあたしは、暖炉の前の一番ぬくもりが取れるソファーに陣取っていて。思い出したような体の震えも少しは収まってきたようだった。
「どうぞ」
カチャッと音がして振り返ると、先ほどの男が温かそうな飲み物を机の上に出してくれたところだった。
「…どうも。」
良い香り。たぶんアールグレイかな?
うん。やっぱり。
ホッとため息が漏れる。
「中野様ですよね。」
男の存在をすっかり忘れていた。
「そうです。」
そう言って、初めて男の顔をきちんと見た。
雪焼けなのだろうか。冬なのに真っ黒な顔をした男。
オーナーにしてはずいぶんと若そうに見えるが、穏やかな物腰には好感が持てた。
「…」
―明、本当にここに…?
「慣れないとビックリするでしょう。」
暖炉に薪をくべながら人懐っこい笑顔をこちらに向ける。
「…そうですね。ずいぶん戸惑いました。」
雪のことを言っているのだろう。本当にそうだったから疲れを隠さずにそう告げる。