tomoka 45
「ありさちゃんにとって…明って大事な人なんだね。」
「…」
「大丈夫だよ。明くん、周りのこと考えられる人だから。あんまり心配かけないうちに帰ってくるつもりだと思うよ。」
「でも携帯もつながんないの。」
「きっとまだタイミングが掴めてないんだよ。」
「…なんの?」
「何のだろ。なんとなくそんな気がするんだよね。」
ありさはまだ何かを言いたそうな顔をしていたけれど、コタツの上に積み上げられたティッシュに目をやるとテレビの横においてあるゴミ箱を引き寄せた。
「だからさ、ありさちゃんも一回家に帰ってみたら?」
「…」
「もしかしたらありさちゃんの家のほうに何か連絡があるかもしれないし。」
「…これって何だと思う?」
そう言ってありさがゴミ箱から取り出したのは、くしゃくしゃに丸められた何かの切り抜きのようだった。
「、何…ってゴミなんじゃないの?」
突然ゴミ箱を漁りだしたありさに、あたしは少し異様なものを感じながらそう答える。
コタツの上にそれを広げだすありさ。あたしはその様子をただ脇で眺めているしかなかった。
広げられたそれは、用をなさなくなったものとしては確かにゴミだったが、少なくともその時のあたしとありさにとっては大切なもののように思えた。
『春休みはリゾートでバイト!がっちり稼いで新学期に備えよう!』
大げさなキャッチフレーズと、高収入の歌い文句。有名なリゾート地の名前がいくつも書かれたその紙は、どうやら何かからそのページだけ切り取られたもののようだった。雑に破られたページの端がこれを手にしてたときの明の心境を映しているようで、胸の奥がチクリと痛んだ。
「これって、もしかして」
明はここに登録してバイトしてるってことなのかな?そう目でありさに尋ねる。ありさもなぜだかその広告から目が離せない様子だった。
「ありさちゃん?」
「あ、…うん。もしかしたら明ここにいるのかも。」
しかし広告によると勤務地はさまざまで、一度登録をして働くと1〜2ヶ月は継続しなければいけないシステムになっているようだった。
「だとしたら…携帯がつながらないのにも理由がつく、か。」
心の中で呟いたつもりが言葉になっていたようで、ありさはビクッと体を震わせると、涙に濡れた瞳であたしを見つめた。
「…でんわ、してみる。」
あたしが頷く前にカバンから携帯を取り出すと、広告に書かれた電話番号に電話をかけるありさ。
少し前まではしおれて枯れてしまいそうな様子だっただけに、あたしは事の展開についていくだけでやっとだった。
「、あ…もしもし?えっとバイトのことでお聞きしたいことがあったんですけど…」
個人情報保護が騒がれている今、そう簡単に教えてもらうことはできないんじゃないだろうか。そんな心配を他所に、ありさはあたかも自分がバイトをするために電話をかけたかのような口ぶりだった。