tomoka 44
「ねぇ、ありさちゃん。どこか心当たり…とかはないの?」
まさか自分が相談をしに来たのに、相談に乗ることになるとは思わなかった。
「…わかんない。」
そう言って悲しそうに目を伏せるありさ。こんな顔されちゃこのまま放っておくわけにもいかないし…
「…そっか。でも何で二人ともいなくなっちゃったんだろう。」
マグカップのコーヒーを一口含む。予想していたよりは飲みやすい口当たりに、少しホッとした。
「あの時とおんなじなの。」
「え?」
マグカップに入ったコーヒーが波立つ。コタツの上にそれがこぼれていないことをチラリと確認してから、ありさの顔に注意を移す。
「ななちゃんと…お姉ちゃんとね、別れたときも明どこに行ったか分かんなくなって。…でもあの時は一週間くらいでちゃんと帰ってきたのに。」
そう言うありさの表情は、こんなときにものすごく不謹慎だとは思うのだけど…あたしが今まで見たありさのどんな表情よりキレイに思えた。
「明…好きだったのかな。」
あたしに向かって、というよりも自分に対して確認するかのようにありさは呟いた。
「朋子のことを?」
「うん…」
「そういえば、ありさちゃん前にさ」
「ん?」
「告白されなかった?とか聞いたじゃない。」
あのときのありさの顔も今日の感じと同じで、いつもの『陽』の雰囲気とは違っていた。…本当のありさはどっちなんだろう。
「、あぁ。」
「あれってどういう意味だったの?」
「…。」
「明…くんに相談されたりとか?」
ぎゅっと唇をかみ締めながら何かを考えてるありさ。
「ごめんね、こんなときに変なこと聞いて。でもずっとここにひっかかっちゃてて。」
あまりにも真剣に考え込む様子に、やっぱり言わなくていいと言おうとしかけたときに、ありさは重い口を開いてくれた。
「……夏くらいかな。明に誘われて飲みに行ったんだけど…明悪酔いしちゃって。そのときポロっと明が言ったの。…好きなやつに告白したって。」
そのときの情景を思い出すのが苦しいのか、目をギュっと閉じるありさ。しばらくそうした後で、大きく息を吐き出した。
「そのときからいやな予感はしてたの。でも次の日にはヘーキそうにしてたから、…まさかこんなに引きずってるとは思わなくて。」
ずっとコタツに向けていた視線をあたしに向けてありさは言葉を絞りだした。
「あの時もっとちゃんと話聞いてあげればよかったのかなぁ。そうしたら明、一人でどっか行ったりしなかったのかなぁ。」
せっかく一度収まりかけていた涙がまた溢れそうで。あたしはあわてて何かふけるものがないかとあたりを見渡す。パッと目に付いたボックスティッシュを箱ごと渡すと、ありさは無言で涙を拭っていた。