tomoka 42
どうしたのよ。何があったのよ。あたしにだけは話してくれるんじゃなかったの?
明にはあたしが必要なんじゃないの?
あたしがいなくても平気なの?
部屋の主を失って、あたしの心と同じように暗闇に包まれた部屋の中でそうつぶやく。
お正月が終わって、テストのために実家から戻ってから、気づくと明に一度も会っていなかったことに心がざわついた。たまらず何度も部屋を訪れたけれど、あたしを出迎えたのはいつも閉ざされた扉だけだった。
―家ん中に入られたって、盗まれるもの何もないからなぁ。
そう苦笑いをしながら予備の鍵をポストの裏に貼り付けていたのを覚えていたあたしは、5度目に部屋に訪れたときにそれを使った。
明の部屋の中の空気は、ずいぶんと長い間換気がされていなかったことをあたしに教えてくれた。靴を脱いでまっすぐ居間まで行くと、窓を全開にする。外は1月だから当たり前なんだけど冬の匂いがして。1月の風は身を切る冷たさなのに、なぜだか寒さは感じなかった。
それよりも、探さなくても分かる…明の気配がないことのほうが苦しかった。
「…あきら?」
返ってこないとは分かっている問いかけを白い壁に放ってみる。明はタバコなんて吸わないから、部屋の中は引っ越してきたときと同じように白さが保たれていた。その清潔な白が、もとからここには明なんていなかったんじゃないかとあたしに思わせて。あたしは、頭に浮かんだ不吉な考えを振り払うように何度も頭を振った。
気がつけばいつも一緒にいてくれた明。ブーブー文句は言っても、いつだってあたしのお願いを聞いてくれた明。
「、なんでいないのよぉ。」
涙腺が壊れてしまったかのようにあふれてくる涙。こんなのいくら流しても明が心配して帰って来てくれるわけもないのに。そんなこと分かってるけど、あたしの涙は止まることを知らないかのように流れていた。
いつも一緒にいてくれるなんて約束、したことなんかなかったけど。離れることなんて考えたことがなかった。明のいない生活なんてもう考えられないのに。
いったいどのくらい時間が流れているのか、見当もつかなかった。
何度か外が暗くなって、明るくなっていた気がするから何日かは経っていたのかもしれない。
「あきらぁ…」
もう、何度目になるか分からない問いかけを吐き出したとき、玄関のチャイムが鳴った。
…あきら?明?明??もつれて足がうまく動かない。早く、開けなきゃ。明が待ってるのに。あきら、あきら、明!
「明?!」
でもあたしの目の前に立っていたのは、これ以上ないくらい目を見開いた香だった。