tomoka 41
とりあえず前に並んでいるお客さんの注文を準備しながら、横目で朋子の様子を窺う。特に落ち込んでる様子でもないから…ケンカしたわけじゃなさそう。そのことに安心すると、お客さんに笑顔でトレーを手渡す。
休憩に入るまでにはまだしばらく時間があったんだけど、店長が目で促してくれた。すみません、と断ってから裏に戻る。
「香、」
「とも!」
小走りで近寄ってくる朋子。犬みたいでかわいい…けど今はそんなこと考えてる場合じゃなくて、
「どうしたの?直樹は??」
「あ…、うん。ちょっと用事が出来てね、でヒマになっちゃったから遊びに来ちゃった。」
迷惑かけちゃったね、ごめん。とうつむく朋子。
「…大丈夫?」
「あきらくんがね、」
「え?」
「明くん、直樹くんに地元帰ってるってウソついてたみたいで。それで直樹くん心配になったみたいで…それで、」
「彼女ほうって友達のとこいったわけ?!信じらんない。」
「や、ちがくてね、あたしが行ってみたら?って言ったの。」
「朋子が?」
「…うん。直樹くんすごい心配そうだったし、…それに時間はいっぱいあるしさ。」
こんな顔で朋子に『いってらっしゃい』なんて言われたら、直樹張り切って行っちゃうだろうなぁ。
「そっか…。まぁ、なんでもないならいいんだけどさ。」
「ごめんね、いきなり来て。店長にもよろしく言っておいてね?」
「うん。あ、朋子!」
「ん?」
今日のために新しく買ったと思われる白いコートが、とてもよく似合ってることを伝えるかどうか少し迷う。
「…何かあったらいつでもおいでね?」
「…うん。ありがとう。」
でも朋子はここには来なかった。その日から直樹は朋子の前に現れなくなったのに。
高橋明は鈍感で。
高橋明はなぜか周りを惹きつけて。
高橋明は残酷で。
高橋明は純真で。
高橋明は…
「あきらぁ…」
暗い部屋で一人名前をつぶやいてみる。そうしたらいつもみたいに、不機嫌な声で、それでもどこか心配した目をしてあたしを振り返る明がいてくれたらいいのに。
そばにいれることがどれほど幸せだったかを、あたしはやっと思い知った。
明がいなくちゃ生きていけないのに。明がいなくちゃどこにも行けないのに。
どこ…行っちゃったのよ。