tomoka 38
その上に、ミカンが入ったカゴを置くと一息つく。薄く朱に染まった空は夕闇が迫っていることを教えてくれた。
─好きな人に告白したんだ
バカ明。人の気も知らないで。
─告白したんだけど
そんなこと言わないでよ…
あの日のことを思い出すと、溜め息しか出ない。目の前で揺れる瞳に、何度口を開きかけたかも分からない。
本当、バカ。バカなのは、何も言えないあたしもおんなじだけど。
立ち上がってカーテンを閉めると、今度はベッドに倒れこむ。うつ伏せになったあたしの横に、クマのぬいぐるみが潜り込んできた。
明は知らない。あたしがコレをまだ大事に持ってるって。もしかしたら自分があげたものだってことも忘れてるかもしれない。
あたしの想いを断ち切らせるように、インターフォンが家の中に響く。
めいいっぱい時間を使って玄関まで出向くと、ドアを開いた。
「おはよ、朋子。」
そう言ってあたしを迎え入れてくれた様子が、いつもよりよそよそしく感じたのは、罪悪感からなのかな。
あたしは目の前にいるこの子の笑顔を奪おうとしてる。
本当に、いいのかな…
アリサの香りに包まれながらティーパックの紅茶を一口飲む。
甘い香りと苦い紅茶が、今の気分にピッタリと合った。
ここに来たのは4度目だけど、なんだか今日はいつもより空気が硬い気がした。
「ね、卒試の勉強してる?」
「…あ、ううん。あほら、あたし卒論だから。」
「心理学科は論文なんだっけ。大変そ〜だね。試験もラクじゃないけどさ。」
「…あのね、」
「ん?」
アリサの綺麗な髪が揺れる。
「この間あたし、」
アリサの色素の薄い瞳にあたしの姿が映る。
「こ…くはくされて……」
「、へぇ〜っ。誰から?いつ?あたしの知ってる人??」
自分の耳が熱くなるのが分かる。
「この間の土曜にね、言われて。それで、」
─直樹だってありさと同じくらい好きなんだよ?
「……直樹くんなの。」
「えっ、本当に??スゴイじゃん。付き合うんでしょ?」
「え…や、まだ返事はしてなくて…」
「そうなんだ〜。付き合うことになったらお祝いしようね。」
笑顔でそうゆうアリサが信じられなかった。
「…なんで?」
「だっておめでたいことは皆でお祝いしたいじゃない。」
「アリサはいいの?」
真っ直ぐな瞳。
その瞳に、少し決意が揺らいだ。
「あたし、直樹くんのこと好きだけど、それはファンとして好きなの。だから、あたしに気なんか使わないで?」
朋子は一つ息を吐くと、やっと笑顔を見せてくれた。
「…ありがと。どうしてあたしの周りの人ってこんなに優しい人ばっかりなんだろ。」
そう不思議そうに呟く朋子に、あたしは苦笑いする。
「あたしが優しいかは分かんないけど、それは朋子の周りだからでしょ。朋子といると、みんな毒気抜かれちゃうんだよ。」
「いや、そんなことないよ。」
「そうなんだってば」