tomoka 37
しばらくの間手元のコーヒーカップを握り締めながら、何かを考えていた朋子は、意を決したのか顔を上げた。
「ありさがね、直樹くんのこと好きだから…どうしたら良いか分からなくて。」
ありさが。直樹を。…そうなんだ。
「そっか。でもそれで直樹のこと断るのは違うと思うよ?」
朋子の目を見つめかえしながら一言一言を語りかける。
「ありさが直樹のこと好きなくらい、直樹だって朋子のこと好きなんだから。ちゃんとその気持に向き合ってあげなよ?…ありさだって、自分が原因で断ったって知ったらきっとショックだよ。」
朋子は目を閉じて、じっとあたしの言葉に聞き入っているようだった。
ちょっと偉そうだったかな…少し気まずくなってしまって、手元のティーカップを口元へと運ぶ。コーヒーも好きなのだけれど、アールグレイのこの香りが気分を癒してくれるようで、つい紅茶を頼んでしまうのだ。
「香、」
カップから口を離すと、ソーサーにきちんとそれを戻してから朋子の視線を受け止める。
「いつもありがとうね。」
直樹が朋子の笑顔に一目惚れした理由、今更だけど分かる気がするな。
朋子より可愛かったり綺麗な人はたくさんいるかもしれないけど。それよりたくさんの人が、この笑顔をもう一度見たいと思うんじゃないかな。
「…あたしね、本当は嬉しかったんだ。」
「直樹の告白?」
「…うん。なんかね、この間明くんに失恋して、ずっと自分が好きになれなくて。」
「そんな、…あれは明が馬鹿なだけだよ。」
あたしの言葉を軽く笑って否定すると、朋子は先を続ける。
「…だからね、純粋に嬉しかったの。あたしのこと見てくれてる人もいたんだ…って思ったら心が軽くなった気がして。」
単純でしょ?と言って笑う朋子が愛しかった。
─ねぇ朋子、ここにもあなたのことを思ってる人がいるからね。いつだって。誰よりも─
喫茶店の前で、朋子は今からアリサの所に行くと言うので、そこで手を振って別れる。
小さいながらも背筋を真っ直ぐ伸ばした朋子の背中に、さっきまでの頼りなげな雰囲気はなかった。
そのことを嬉しく思いつつも、あたしとの間に少しづつ距離が開いて行くようで…寂しい。
「上手くいくといいね。」
思わず口から溢れたその言葉が、何に対してのモノなのかは、自分でもよく分からなかった。
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朋子が固い声で電話をかけてきてくれたとき、やっと話す気になってくれたか…と受話器のこちら側で、あたしはホッと溜め息をついていた。
─だって…あたし知っていたから。直樹くんが朋子に告白したことを。
朋子はこれからあたしの家まで来てくれると言うので、窓際に飾っておいた写真立てをタンスの中にしまっておく。
別に見られてもマズイ写真ではないんだけど、ね。ただ今の気分的には、そうしたかった。
あたしの部屋の真ん中には、最近出したコタツがあって。