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tomoka
恋愛リレー小説 - 同性愛♀

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tomoka 36

この臭い、好きなんだけど…切なくなるのはなんでなんだろう。


駐輪場の一階の隅に停めておいた自転車を引っ張り出し、ポケットから冷たくなった鍵を取り出す。
鍵穴にそれを入れて回すと、カシャンという音がして鍵が開いた。
昨日の夜から放置していた自転車には延滞請求の紙が貼ってあって。
それを剥がすとゴミ箱に丸めて捨てる。
乾いた音と共にゴミ箱に吸い込まれていくそれを、どこか知らないものように眺めている自分がいて。
さっきまでの視線との温度差に、違和感を覚えた。
─本当のあたしはどっちなんだろ…
後にして思えば、きっとどちらもあたしなんだろうけど。その時は本気でそんなことを考えていた。


──────────
そんなことを、何故だかふと思い出した。
目の前には相変わらず真っ黒な闇が広がっていて。気を抜いたらそこに吸い込まれそうになるのを必死で堪える。
─どこにもいかないで
何もいらない。ただ側にいて欲しいの─

あの時、口に出せなかった言葉が頭の中で何度も巡る。
…いい加減、この呪縛から解き放れたいのに。
─恋をしなきゃダメみたいだよ?

頭の中の理性がそうささやく。
─今度は幸せな恋が出来るから
なんの根拠もないその言葉が、今のあたしには砂漠でみつけたオアシスのようだった。
…たとえそれが、近付けば消えてしまう蜃気楼だとしても。


いつもの角を曲がって家の灯りが見えると、やっと一心地ついた。
自転車を家の脇に停めると、玄関のドアを開ける。
「ただいま」
外の空気とは違う暖かな空間が、あたしの心を解きほぐす。
靴を脱いでから居間に行くと、両親はコタツで最近始まったばかりのドラマを見ていた。
いつも通りの光景。
いつも通りの会話。

その当たり前のことにホッとして、久しぶりにゆっくり眠ることが出来た。



それからしばらく当たり前の日常が戻ってきて。やっとそれを普通だと感じられるようになったころ、朋子から相談を受けた。
10月になると自転車に乗るときに手袋が必要で。その買い物に付き合ってもらった帰りに寄った喫茶店でだった。
暖かな照明にフカフカのソファー。目の前には朋子がいてくれて。その時まであたしはこれ以上何もいらないくらい幸せだった。
「直樹くんから告白されたの。」
…この言葉を聞くまでは。


なんて言ったらいいか少し迷った。
本音を言うわけにもいかないし、かと言っておめでとう…も違うと思うし。
朋子の顔色を窺ってみるけど、嬉しそうには……見えなかった。
「そっか。返事はしたの?」
その問いには黙って首を横に振る。
「直樹、イイヤツだよ?」
「…うん。」
まだ忘れられないんだろうな。明のこと…
「明くんのことは関係ないよ?ただ、」
そんなあたしの考えを読んだように朋子は否定して口ごもる。
あたしは朋子から口を開くのを待った。

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