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tomoka
恋愛リレー小説 - 同性愛♀

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tomoka 35

一通り食事が終わったところで、朋子がトイレに席を立った。
「…ねぇ、香」
まるで朋子がいなくなるのを見計らったようなタイミングに、あたしは少しギクリとする。
食べ終わった食器の上に持っていたスプーンを置くと、あたしは今日初めてありさの顔をきちんと見た気がした。
「ん、どしたの?」
さっきまで朋子に見せていたのとは違う、ありさの真剣な表情に胸がざわめく。
「あのさ、明のことなんだけど。」
─アキラ?
「明からさ、…告白とかされたことある?」
「………は?」
返事を返すのに、たっぷり5秒かかった。言われた内容を理解するのにはさらに時間がかかったんだけど。
「…あの、意味がよく分からないんだけど?」
そう言ってからありさの様子を窺うが、冗談を言っているようには見えなかった。
「香でもない…か。」
「…あたしでもない、ってどういう意味?」
一人で納得しているありさに少し苛立ちを覚える。
「ごめん…聞かなかったことにして?」
「…」
─そんな泣きそうな顔で言われたら、聞きたくても聞けないじゃない。
あたしが黙ったまま頷くと、ありさはホッとしたようだった。

テーブルの上に置かれたままのグラスに手をつけると、窓の外を眺めたまま朋子が帰ってくるまで、ありさはこちらを見ようとはしなかった。


それからしばらくして朋子が帰ってくると、ありさは先ほどまでとは打って変わって元通りになっていた。
─さっきの、なんだったんだろ…
あたしは今度はそればかり気になって、ありさの笑顔の裏に隠された顔の表情を読み取ろうとしたけれど、結局何があるのかは分からなかった。


「それじゃまたね。」
朋子とありさは家が同じ方向なので、あたしは一人で家へと向かう。

真っ暗に染まった闇を、自転車のライトが頼りなげに照らす。怖いと思ったことはあまりないが、独りを感じたことはある。

このまま自分では気づかないうちに、どこか違う場所へ向かっていて帰れなくなったらどうしよう。
帰る家があることに、その時ばかりは安堵した。


そんなことをふと思い出して、懐かしさを感じた。
たぶんあれは2年前の今頃で、付き合っていた人と会った帰り道だったんだと思う。


──────────
「それじゃまたメールするね」

語尾に今では考えられないほどのハートマークをたくさんつけてそう言うと、あたしは電車のドアが閉まるのを待つ。
視線の先には当たり前のように彼がいて、電車が出る数秒間を惜しむように視線を返してくれる。
ゆっくりと動きだす電車を目で追う。暗いトンネルの向こうに光が吸い込まれていっても、あたしはしばらくじっとその後を見送る。
気が済むまでその名残を味わうと、動くことを思い出した機械のようにあたしは地上へと向かった。


─寒…
秋からそろそろ冬に変わろうとしている季節の臭いが香る。

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