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tomoka
恋愛リレー小説 - 同性愛♀

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tomoka 33

社員さんに声をかけられて時計を見るとまだ時間は15分ほど残っているはずで。そのことを伝えると、
「今日だけ特別な?」
と笑顔を返してくれた。
「…ありがとうございます。」

その優しさに涙が溢れそうになって。
気付かれないように手で拭うと、一礼して更衣室へと向かう。

朋子は店長と話をしているようで、更衣室には姿が無かった。
「夢じゃない…よね?」
試しに頬をつねってみると、痛みを感じて。
現実を実感する。

「…香大丈夫?」
振り向くとあたしの振る舞いを怪訝そうに見つめる朋子が立っていて。

もし朋子に会えたらあれを言おうこれを言おうって考えていたはずだったのに。
考えていた言葉たちはどこかに飛んでいってしまったようで。あたしの頭の中は空っぽだった。
「だいじょうぶ。」


「…変な顔」
「うそ?」
「ウソ。」
本当なわけないじゃない、と言って顔をほころばせる朋子。
「…あのさ、朋子」
「香ごめんね。」
「……どうして?」
謝りたかったのはあたしの方なのに。
「心配かけちゃって。ごめんね?」
「…本当だよ。もぉ、どのくらい…あたし心配したと、思って…」
「ごめん…」

「もぅ…二度と会えないんじゃ、ないか…って、…思って」
「…うん」
「本当に、不安…だったんだか、ら…。」
「そんなわけないでしょ?…ほら、ちゃんとここにいるし。」
目の前にいる朋子のことを困らせているのが分かっていても、止まることを忘れてしまったかのように涙は溢れてくる。
「もう大丈夫だから…ね?」
そう言って、涙を拭いてくれる手の温もりが指先から伝わってきて…なんだか心地良かった。


「これじゃ、どっちが大丈夫なのか分かんないね。」
子どものように泣きじゃくるあたしをあやしながら、朋子はそう呟く。
その声に含まれている優しいトーンが、あたしの心を落ち着かせてくれるのを感じた。


「…ごめん」
「泣きやんだ?香ちゃん。」
「子供扱いされてる…。」
「さっきの香、可愛かったからね。初めてじゃない?あたしの前で泣いたの。」
「そうだっけ?」
「泣き顔も可愛かったよ。」
そう言ってクスクス思い出し笑いをしている朋子。こんな顔見るのいつぶりだろ…
「…ねぇ、久しぶりにお茶してかない?」
「いいね。じゃ早く着替えちゃおっか。」
朋子の言葉で、まだ制服姿のままだったことに気付く。

なんとなく朋子と顔を見合わせて、あたしたちは笑った。


「ね、せっかくだからありさも呼ばない?」
「…あ、うん…そだね。」
あたしの答えを待たずに携帯を取り出すと、嬉しそうに携帯電話に話しかける朋子。
それに引き換え、あたしの心はモヤモヤしていた。
─ありさって呼ぶようになったんだ。
朋子の隣にいるのはあたしだけでいいのに。


思わずそんなことを考えている自分に驚いた。
アリサのことは嫌いじゃない。むしろ好ましく思っている。でも─
「香?」
名前を呼んだ声に含まれたトーンにハッとすると、慌てて笑顔を作る。

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