tomoka 30
あまりの変わりように慌てて言い直す。
「直樹は誰のことだか分かってないと思うけど。」
「どういうこと?」
なるべく余計なことは言わないように、言葉を選びながら話しだす。
「直樹に相談されなかった?」
好きな子に恋愛相談されたって話。と聞くと身に覚えがあったらしく、首を縦に振られた。
「それじゃ、なんでその子が悩んでるかは?」
と聞くと、そこまでは知らないようだった。
出来ればあたしの口からは言いたくなかったけど、そんなことを言っている場合じゃなかった。
「その子、好きな人が友達と歩いてるところを見ちゃったんだって。」
─つまりあたしと明が歩いてるところを
「その友達に、その人の相談してたから余計ショックだったみたいで…」
─誤解、するよね。そうじゃなくても心配してたのに。
「ちょっと待って、」
それまで黙ってあたしの話を聞いていた明がやっと口を挟んできた。
─朋子の好きな人って俺?
言葉には出さなかったけれど、何かを確かめるような瞳に、あたしは頷いた。
「…直樹は?まだ気づいてないんだよな?」
─ナオキ?…あぁ直樹?
「こんな時でも直樹なんだね。」
言葉尻が皮肉に聞こえてしまうのを承知であたしは答える。
─朋子の心配はしないのに直樹のことは気遣うんだ。
…気づいてた?あたしに会ってから朋子のこと自分から話してないこと。
「悪いけど、俺にとって直樹のほうが大事だから。」
そうまっすぐに言い切る明の瞳に、遠慮や嘘は感じられなかった。
明の気持ちに対するどんな憶測よりも、この言葉はあたしの心に響いて。
直樹が心配していたように、自分のために朋子を諦めたんじゃないことが伝わってきた。
絡まった糸を整理しながら、直樹はまだ知らないことを明に告げると、やっとホッとしたようだった。
コーヒーに手をつけた明を見ていたら、どうしようもない衝動に駆られてしまって。
「誰が好きなの?」
ずっと聞きたかった言葉が、思わず口をついて出てしまった。
ゴホッ
明がコーヒーにむせた音が店内に響く。
幸運にもあたしたちの周りには誰も座っていなくて、明の失態は誰にも見られずにすんだ。
「んなの、言えねぇよ。」
口の周りについたコーヒーを拭いながら少し怒ったように呟く明。
照れてる、のかな?
「急に聞いたら意外と答えてくれるかと思ったんだけど。」
「香はどうなんだよ?」
さらっと流したら逆襲にあった。
「朋子。」
目の前の明の顔がクエッションマークになる。