tomoka 29
直樹の困った顔が一瞬頭をよぎったけど、それよりも朋子の方が大事だった。
「…朋子がさ、今あたしと話、してくれないんだよね。バイトもずっと休んでるし。」
そこで言葉を切ると、明の反応を待つ。
明は何のことだかさっぱり分かっていないようで。
─どこまで鈍感なのよ?
「何でだか分かる?」
明を責めるのはお門違いだって分かっていたけれど、少しは明も悩ませてやりたかった。
日焼けした顔が何かを考えるように歪んだが、すぐに首を横に振られた。
予想はしていたけど、少し落胆した。
「そうだよね。」
─やっぱり、朋子のこと見てなかったんじゃないかな。
テーブルの上に丸められた紙ナプキンを見ていたら、そんなことがふと心をよぎった。
「明は、気になってる人いる?」
今度はまっすぐに明を見つめて問い掛けた。
明の少し茶色がかったこげ茶の瞳が誰かを映しているように思えた。
「いるけど。…なんで?」
─それは朋子じゃないの?
喉本までせり上がってきた言葉を何とか押し込める。
さっきからの雲を掴むようなあたしの話に、ついに我慢できなくなったのか明がそう問い掛けてきた。
全てを知ろうとする、射抜くような視線を全身に浴びる。
─明にしか助けられないんだから。
迷っていたあたしに、心の中の誰かがそう囁く。
─言うしかない、よね。
ごめん直樹!
「それは、」
「お待たせいたしました。こちらアイスコーヒーになります。」
図ったようなタイミングで現れたウェイトレスに、少し助けられた。
ホッと一息吐いたあたしを尻目に、明は『さっさといなくなれ!』とばかりに彼女を睨んでいて、少し可笑しかった。
店員がいなくなるまで待つと、明は続きを目で促す。
勢いをつけるために、普段はブラックでは飲まないコーヒーを一口すすると、口の中に馴れない苦味が残って。
タバコを吸う人はこの苦味とタバコが合うなんて言うけれど、あたしには理解できない味だ。
意を決すると、明に、この間二人で映画に行ったところを朋子に見られていたことを打ち明けた。
明も思い当たる節があったらしくて、やっぱりあの時…と呟いていた。
あの時何があったのかも気になったが、本題へと入る。
「勘違い…したみたいなんだよね。」
朋子が。と付け足すと、明も何のことか分かったのか相槌を打ってくれて。
バイトもその日から休んでいて、電話もメールも連絡がつかないことを告げると、明は疑問を持ったらしく。
「じゃ、そのこと誰から聞いたんだ?」
「直樹から」
聞いて…と言ったとたんに、明の顔色が変わった。
─何かいけないこと言っちゃったかな?