tomoka 28
地下鉄の駅につくと、駐輪場に停めるのももどかしくて。
地下鉄の入り口の近くに放置して、階段を駆け降りる。
地下鉄のカードを差し込んで、改札口へと走る。
きっと最速記録が出たんだろうな、と思いながらプラットホームで呼吸を整える。
腕時計を見ると、家を出てからまだ15分も過ぎてなかった。
「いつもは20分はかかるのに。」
こんなときだけど、なんだかおかしくて。
笑みがこぼれた。
─もうすぐで鍵が見付かる。
頭の中で誰かがそう囁いた。
…鍵って何の?
あたしがその答えを知るのは、もう少し後の事だった。
「少し、早すぎたかな。」
店の前で時間を確認すると、まだ待ち合わせの40分前で。
かといってどこかで時間を潰すには中途半端だし…
「中で待ってればいっか?」
そう自分に言いきかせてからLUCEの扉を開ける。
─カランカラン
音を立てて開いた扉をくぐって店内に入る。
夕方だからか、いつもより照明の落ちた暗い店の奥に、見知った姿を発見した。
近寄ってきた店員に、待ち合わせだったことを告げると、店の奥へと歩き出す。
─さっき目が合ったと思ったんだけど…
真っ直ぐに明を見つめながらテーブルへと近付く。
間近で見ると、まだ明の髪が湿っているのが分かる。
─急いで来たのかな?
だとしたら謝らなきゃ。
机の上にはクチャクチャになったナプキンがいくつか散らばっていて。
ずいぶん待たせてしまったみたいだった。
「明」
声をかけると驚いたように顔を上げた。
「…かおり?」
分かんなかった?と尋ねながら、向かいの席に腰を下ろす。
明にまじまじと見つめられて、少し居心地が悪かった。
「そんなのかけてるから分かんなかった。」
あぁ。
視線の意味に気付いて、サングラスを外すと余計に明は驚いたみたいだった。
だからか…
視線の意味に気付いて、サングラスを外すと余計に明は驚いたみたいだった。
今度はその視線には答えずに、コーヒーを運んできたウェイトレスにアイスコーヒーを頼む。
まだ腫れ引いてなかったかな。
朝よりはマシになったと思うけど…
「なんかあった?」
─え?
「何も聞いてないの?」
聞いたから呼ばれたのかと思った。と呟くと明の様子をうかがう。
どこまでを話せばいいのか分からなかった。
「だから、何が?」
そんな煮え切らない態度のあたしにイライラしたのか、問い返した明の口調は苛立ちが混じっていた。