tomoka 26
話したいことがあるから、連絡が欲しいとだけメッセージを入れると電話を切った。
やっぱり出てくれない、か…。
それでもどこかでかかってくることを期待して、携帯を握り締めたまま浅い眠りについた。
窓から差し込む朝日で目を覚ます。
「カーテン、閉めなかったっけか」
ボーっとした頭で昨日の記憶を呼び起こす。
…
携帯!
慌てて開いてみたけれど、連絡は来ていなかった。
あたしには、どうにも出来ないよ…
情けなくて泣けてきた。
明に頼むしかないのかな…
今日はバイトが昼過ぎまでだから、終わったら朋子の家に行ってみようかな。
携帯に頼るのもいいけど、大切なことは顔見て話さなきゃ…
とりあえず顔を洗いに洗面所へ向かう。
冷たい水で肌を叩くようにして洗う。
タオルで顔を拭きながら、何気なく鏡を見ると知らない人がこっちを見ていて。
「ひゃぁっ…ってこれアタシ?」
寝不足で血行が悪く、マブタも腫れていて髪はグシャグシャ。
どう頑張っても、人前には立てそうになかった。
化粧水を肌に馴染ませ、マッサージをしてみても瞼は腫れたままで。
マネージャーに電話する。
体調が悪いため休めないかと切り出すと、大丈夫だから今日はゆっくり休めと言われた。
感謝の言葉を伝えて電話を切ると、直樹にメールを打つ。
朋子に電話に出てもらえなかったことを伝える。
部屋の籠った空気を換気しようと窓を開けた。
外はいい天気で、あたしや直樹が悩んでても太陽は明るいことになんだかホッとした。
─また朋子と一緒にバイトしたいな。
ちょっと前まで普通だったこと。
失くしてしまってから気付く、普通であることの大切さ…
また同じ失敗をするのは嫌だった。
─ブー
思考を中断させる振動音が部屋に響く。
直樹からだと思っていても、それでもまだどこかで期待していて。
携帯を開くのも、もどかしかった。
─朋子から…なわけない、か。
メールは予想通り直樹からで。
明に相談してみるとのことだった。
よろしく。とだけ書いて返信すると、ベットに倒れ込む。
頭が上手く働かなくて。
自分がどうするべきなのか、分からなかった。
お昼を過ぎると、さすがに親が心配して様子を見に来てくれて。
少し疲れただけだから、と笑顔を見せても不安そうな顔をされた。
─これじゃ去年の今頃みたいだ。
一日中、自分の部屋に引き篭って。
外の世界を拒絶してたあの頃…
そういえばどうしてまた笑えるようになったんだっけ?
確かあの時─
「香!お友達来てるわよ?」
ごめんなさいね。
あの子ここしばらく部屋から出たがらなくて…
そう謝る母親の言葉を、あたしはどこか人事のように自分の部屋で聞いていた。
「すみません、部屋まで行ってみてもいいですか?」
かすかに朋子の声が聞こえた気がした。
「それは構わないけど…」
失礼します、と言って階段を上がってくる音がした。